個人の国際税務に関する確定申告では、「一部だけを知っている」状態が、かえって申告誤りを招きやすくなります。
海外給与、海外投資、送金の有無など、個々の論点を点で理解するのではなく、全体の流れを整理して判断する視点が重要です。
本稿では、これまでの連載内容を踏まえ、確定申告時に確認すべきポイントを体系的に整理します。
最初に確認すべきは「居住区分」
すべての判断の起点となるのが、居住区分の確認です。
- 非永住者以外の居住者
- 非永住者
- 非居住者
どの区分に該当するかによって、課税所得の範囲は大きく異なります。
所得の種類や金額を検討する前に、その年のどの期間に、どの区分に該当していたかを時系列で整理することが不可欠です。
年の途中で区分が変わっていないか
入国・出国、海外赴任・帰任などがあった場合、1年を通じて同一の居住区分とは限りません。
- 居住者期間
- 非居住者期間
- 非永住者期間
が混在するケースでは、期間ごとに所得を切り分けて考える必要があります。
この整理を怠ると、課税対象の過不足が生じやすくなります。
所得の「発生地」と「内容」を整理する
次に確認すべきは、所得の内容と発生地です。
- 給与所得
- 株式報酬
- 配当・利子
- 株式譲渡益
- FXなどの雑所得
それぞれについて、
- 日本での役務か、海外での役務か
- 国内源泉か、国外源泉か
を整理します。
支払者が日本か外国かだけで判断しないことが重要です。
非永住者の場合は「支払」と「送金」を確認
非永住者が関与する場合、次の点が特に重要になります。
- 国外源泉所得であっても、国内払いがないか
- 国外から日本への送金が行われていないか
「海外口座に置いたまま」という理由だけで課税関係がないとは限りません。
資金の流れを具体的に確認する必要があります。
海外金融取引は国内取引と分けて考える
海外証券口座や海外金融業者を通じた取引については、
- 自動的な税務処理は行われない
- 年間取引報告書が存在しない場合が多い
という前提で考える必要があります。
円換算方法、損益通算の可否、外国税額控除の検討など、
国内取引とは異なる確認事項がある点を意識することが重要です。
調書制度・情報把握を前提に考える
海外給与や株式報酬については、調書制度により税務当局が情報を把握しているケースがあります。
「海外の話だから分からない」という前提で申告を省略するのは、現実的ではありません。
申告内容と調書内容の整合性を意識した整理が必要です。
確定申告時の実務チェックポイント
実務上は、次のような順序で確認すると整理しやすくなります。
- 居住区分と期間の確定
- 所得の種類ごとの洗い出し
- 所得ごとの発生地・対応期間の整理
- 非永住者の場合は送金・国内払いの有無確認
- 海外金融取引の円換算・損益通算の可否確認
- 外国税額控除や必要書類の検討
この流れで確認することで、判断漏れを防ぎやすくなります。
結論
個人の国際税務における確定申告では、
一つひとつの論点よりも、全体をどう整理するかが重要です。
居住区分を起点に、期間・所得内容・資金の流れを順に確認していくことで、
複雑に見える国際税務も、実務として整理可能なものになります。
本シリーズが、確定申告に向けた実務整理の一助となれば幸いです。
参考
- 東京税理士協同組合教育情報事業
「全国統一研修会 令和7年分確定申告に向けて 個人の国際税務」研修資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
