海外証券口座を利用した投資や、外国金融機関を通じた取引は、個人にとって特別なものではなくなりました。
その一方で、海外金融取引に関する確定申告は、国内取引とは異なる論点が多く、判断を誤りやすい分野です。
特に注意が必要なのは、
「海外で行った取引だから日本では関係ない」という理解が、必ずしも正しくない点です。
海外金融取引と課税関係の基本
海外金融取引に関する課税関係は、
居住区分と所得の種類を踏まえて整理する必要があります。
居住者の場合、原則として国内外を問わず所得が課税対象となります。
非永住者の場合でも、一定の海外所得は課税関係が生じます。
まずは、第1回・第2回で整理した居住区分を前提に考えることが欠かせません。
海外の配当所得・利子所得の取扱い
海外株式の配当や、海外預金の利子については、次の点がポイントになります。
- 所得区分は配当所得または利子所得
- 居住者の場合は原則として申告対象
- 外国で源泉徴収された税金がある場合、外国税額控除の検討が必要
国内の特定口座と異なり、自動的に課税関係が完結する仕組みはありません。
自ら申告内容を整理する必要があります。
海外株式の譲渡所得
海外株式を譲渡した場合の譲渡益・譲渡損についても、原則として申告が必要です。
注意すべき点としては、
- 国内証券会社の特定口座とは異なる
- 年間取引報告書が自動で作成されない
- 円換算の方法を適切に選択する必要がある
といった点が挙げられます。
国内口座との損益通算の考え方
実務で悩みやすいのが、国内口座と海外口座の損益通算です。
一定の要件を満たす場合には、
- 国内上場株式等の譲渡損益
- 海外証券口座で生じた上場株式等の譲渡損益
を通算できるケースがあります。
ただし、所得区分や課税方式が異なる場合には、通算できないこともあります。
機械的に「まとめて相殺できる」と考えるのは危険です。
海外FX取引の位置づけ
海外の金融業者を通じて行ったFX取引については、雑所得として整理されます。
国内FX取引と同様に見えても、
- 税率
- 損益通算の範囲
- 損失の繰越可否
などの点で取り扱いが異なる場合があります。
海外取引であることを理由に、申告を失念するケースが少なくありません。
非永住者の場合の追加的な注意点
非永住者の場合、海外金融取引については、
- 国内払いがあるか
- 国外から送金されているか
といった点が課税関係に影響します。
「海外口座に置いたままだから申告不要」と判断する前に、
資金の流れを時系列で整理することが重要です。
実務で起こりやすい誤り
海外金融取引に関して、次のような誤りが多く見られます。
- 国内口座と同じ感覚で処理している
- 円換算の方法が不適切
- 損益通算の可否を誤っている
- 外国税額控除を検討していない
これらはいずれも、国内取引との違いを十分に意識していないことが原因です。
結論
海外金融取引の申告では、
居住区分・所得区分・資金の流れを丁寧に整理することが不可欠です。
国内取引と同じ感覚で処理するのではなく、
どこが異なるのかを一つずつ確認することで、申告上の誤りは防ぎやすくなります。
次回は、シリーズの締めとして、
個人国際税務における確定申告のチェックポイントを総整理します。
参考
- 東京税理士協同組合教育情報事業
「全国統一研修会 令和7年分確定申告に向けて 個人の国際税務」研修資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
