個人の国際税務の中でも、実務上もっとも誤解が多いのが非永住者の課税関係です。
「海外で得た所得は日本では課税されない」「送金しなければ申告不要」といった理解は、必ずしも正確ではありません。
非永住者は居住者でありながら、課税所得の範囲が限定されるという特殊な位置づけにあります。そのため、制度の前提を正しく押さえないと、判断を誤りやすくなります。
非永住者の基本的な位置づけ
非永住者とは、居住者のうち次の要件を満たす者をいいます。
- 日本国籍を有していない
- 過去10年以内の国内居住期間の合計が5年以下
重要なのは、非永住者は非居住者ではないという点です。
あくまで居住者であり、そのうえで課税範囲が一部調整されています。
非永住者の課税所得の範囲
非永住者に課税される所得は、次の3つに整理されます。
- 国外源泉所得以外の所得
- 国外源泉所得のうち、国内において支払われたもの
- 国外源泉所得のうち、国外から送金されたもの
この構造を理解しないまま「海外所得だから日本では関係ない」と判断してしまうケースが少なくありません。
「国内において支払われたもの」とは何か
非永住者の課税関係で見落とされやすいのが、「国内において支払われたもの」という考え方です。
たとえば次のようなケースが該当します。
- 海外の取引先からの代金が、日本国内の銀行口座に直接振り込まれた
- 海外不動産の賃料が、日本の口座で受け取られている
この場合、所得の源泉が国外であっても、国内払いとして課税対象となります。
「送金課税」の基本的な考え方
非永住者に関する制度としてよく知られているのが、いわゆる「送金課税」です。
これは、国外源泉所得であっても、
- 国外から日本へ送金された部分
については、日本で課税されるという仕組みです。
ただし、送金があったからといって、必ずしもその送金額全体が課税対象になるわけではありません。
送金と所得との対応関係を整理する必要があります。
よくある誤解と実務上の注意点
実務で特に多い誤解として、次のようなものがあります。
- 海外口座にある限り、日本では課税されない
- 日本に送金したのは生活費なので申告不要
- 送金額=課税所得と考えてしまう
実際には、どの所得が、いつ、どのように送金されたかを個別に確認する必要があります。
送金の有無だけで機械的に判断することはできません。
非永住者期間がある場合の申告実務
非永住者であった期間がある外国人が確定申告を行う場合、通常の申告書に加えて、居住形態等に関する確認書の提出が求められます。
この確認書では、次のような事項を整理します。
- 入出国の履歴
- 居住区分ごとの期間
- 非永住者期間中の国外源泉所得と送金状況
居住区分の判定と送金状況が、申告書上で明確に説明できる状態にしておくことが重要です。
結論
非永住者の課税関係は、「海外所得かどうか」ではなく、
居住区分と支払・送金の実態によって判断されます。
特に送金課税については、思い込みで判断せず、
所得の発生・支払・送金の流れを一つずつ整理することが欠かせません。
次回は、年の途中で入国・出国した場合の居住区分と確定申告実務について取り上げます。
参考
- 東京税理士協同組合教育情報事業
「全国統一研修会 令和7年分確定申告に向けて 個人の国際税務」研修資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
