転職が当たり前になった時代に、見落とされがちなのが「確定拠出年金(DC)」の移換手続きです。退職時に放置されたままの企業型DC資産が急増し、2024年度末には3,300億円を超えました。運用されず、手数料で目減りしていく「放置年金」は、将来の老後資産に大きな影響を及ぼしかねません。今回は、この「放置DC」問題の現状と注意点を整理します。
■ 自動移換とは何か
企業型DCは、公的年金に上乗せする私的年金のひとつで、会社が拠出した掛金を従業員が自ら運用する仕組みです。
転職や退職により企業型DCの加入資格を失うと、原則として6カ月以内に「移換手続き」をする必要があります。
移換先としては次の2つがあります。
- 転職先の企業型DC
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
この手続きを怠ると、国民年金基金連合会に自動的に資産が移されます。これを「自動移換」と呼び、資産は運用されないまま保管されるため、実質的に“塩漬け”の状態になります。
■ 放置年金が膨らむ背景
2024年度末時点で、自動移換された資産は約3,361億円、対象者は約138万人に達しました。10年前と比べて3倍近くに増えています。
背景には、転職件数の増加と、退職者自身の手続きへの意識不足が挙げられます。
多くの人が「転職先でまた企業型DCに入るから大丈夫」と考えがちですが、移換手続きをしない限り資産は連動しません。運用益が得られず、時間とともに減っていくリスクがあるのです。
■ 手数料の負担も増加
自動移換された資産は運用されないため、手数料だけが差し引かれていきます。
現状では月52円ですが、2026年4月からは月98円に引き上げられる予定です。
一方で、放置された資産を再び運用に戻すための費用(移換手数料)は1,100円→550円に引き下げられます。
国民年金基金連合会は、手数料負担を見直すことで、早期の移換を促す狙いです。
■ どう対処すればよいか
放置を防ぐためのポイントは、退職後6カ月以内の手続きです。
転職先の人事部門や金融機関に相談し、以下の書類を用意しましょう。
- 退職した企業のDCの「加入者資格喪失通知」
- 転職先またはiDeCo加入先の「加入申出書」
- 基礎年金番号やマイナンバーなどの本人確認書類
また、すでに自動移換されている場合も、iDeCoなどに移すことで再び運用を再開できます。手続きは金融機関経由で行えます。
結論
確定拠出年金は「自分で育てる老後資金」です。転職のたびに積み上げた資産を放置してしまうのは、複利の恩恵を失うだけでなく、手数料で目減りするリスクも抱えます。
放置資産が3,000億円を超えるという事実は、働く世代全体の“意識の隙”を映し出しています。
転職・退職の際は「給与明細」や「健康保険の切替」と同じように、DCの移換手続きも確実にチェックしておきましょう。
出典
- 日本経済新聞「確定拠出年金『放置』3300億円」(2025年10月28日付)
- 国民年金基金連合会「企業型DCから個人型DC(iDeCo)への移換手続き」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
