政府の税制調査会で、研究開発に取り組む企業の法人税負担を軽減する「研究開発税制」について、政策効果の検証が始まっています。研究開発税制は年間1兆円弱の減税規模を持つ、日本の企業向け税制の中でも最大級の制度です。しかし近年、研究開発投資を「どれほど押し上げているのか」について疑問が呈されており、制度の見直しが2025年度末に迫っています。
この記事では、最新の議論を参考に、研究開発税制が直面する課題、経済産業省と財務省の立場の違い、そして今後想定される制度見直しの方向性をわかりやすく整理します。
研究開発税制とは何か
研究開発税制は、企業が行う試験研究費に対して法人税の優遇を与える制度です。
特徴は次の通りです。
- 売上高に対する試験研究費の比率(R&D比率)が増加するほど減税額が大きくなる
- 国内外を問わず、委託研究費も対象
- 減税規模は年間1兆円弱と、企業向け政策の中で最大級
政策目的は「企業が意欲的に研究開発投資を行い、技術革新を進めること」にあります。
財務省の最新分析:「効果は乏しい」
税制調査会で財務省が示したデータでは、制度の効果に疑問が呈されています。
ポイント①:研究開発投資の伸びは物価や賃金の上昇程度
2020〜2022年度の試験研究費の伸びを分析したところ、
- 中央値の増加率は約3%
- 物価・賃金上昇率と同程度
- 実質的な投資増とは言えない
つまり「研究開発税制によって研究開発費が押し上げられているとは言えない」という評価です。
研究開発費の構成を見ると、
- 人件費:約4割
- 原材料費:約1割
となっており、物価や賃金が上昇すれば自然と研究費も増える構造です。財務省は「制度が研究開発を実質的に増やすインセンティブとして機能していない」と指摘しました。
ポイント②:海外委託費まで減税対象なのは日本特有
財務省は、海外の研究機関や企業への委託費も減税対象に含まれる点も問題視しています。
- 諸外国では外部委託費に制限がある
- とくに「海外向け委託」は厳しく制限されるのが一般的
- 国内技術の蓄積につながらない可能性がある
海外に研究費が流れ、国内技術力向上につながらないとの懸念です。
制度見直しの方向性と論点
委員からは次のような提案が出ています。
- 対象要件にメリハリをつけるべき
- 制度効果を定期的に検証する仕組みが必要
一方で、制度を縮小すれば財源が生まれるため、
ガソリン税の旧暫定税率廃止による税収減の穴埋めに使える
という意見も浮上しています。
これに対し、経済産業省は次のような立場です。
- 日本企業の技術競争力維持のためには「拡充」が必要
- 特に生成AI・半導体・脱炭素技術などの国家戦略分野は投資促進が欠かせない
財務省と経産省の方向性は真逆であり、年末に向けた議論は難航が予想されます。
結論
研究開発税制は、企業の技術開発投資を支援する重要な税制ですが、近年は物価や賃金上昇に押され、実質的な研究費の増加にはつながっていないとの指摘が強まっています。特に「海外委託費まで減税対象」「制度の効果が見えにくい」といった課題が浮き彫りになりました。
2025年度末に制度期限を控え、縮小か、拡充か、根本的な見直しか。税収確保、産業競争力、財政健全化という複数の目的が交錯する中で、研究開発税制は大きな転換点を迎えています。
企業としても、今後の議論を注視しながら、自社の研究開発投資と税効果の関係を改めて点検していく必要があると言えます。
出典
- 日本経済新聞「研究開発税制、効果乏しく」
(2025年11月13日付) - 政府税制調査会(財務省)資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

