企業向けの政策減税の実績が公表されました。
2024年度、研究開発税制による減税額が初めて1兆円を超えました。賃上げ促進税制も拡大し、法人税における税額控除の総額は2兆円規模に達しています。
数字だけを見ると「企業支援が拡大している」という印象ですが、その中身を冷静に整理すると、いくつかの重要な論点が浮かび上がります。本稿では、研究開発減税の拡大と賃上げ促進税制の動向を整理しながら、租税特別措置の今後のあり方を考えます。
研究開発税制が初の1兆円超
2024年度の研究開発税制による減税額は、約1兆69億円となりました。適用件数は約1万8000件です。
研究開発税制は、企業の試験研究費の一定割合を法人税額から直接控除できる仕組みです。支出が増えれば増えるほど控除額も拡大する構造となっています。
今回1兆円を超えた背景には、次の要因が考えられます。
- 企業の研究開発投資の拡大
- 物価・賃金上昇に伴う試験研究費の増加
- 税額控除方式による効果の大きさ
税額控除は、課税所得を減らす「所得控除」よりも直接的に税負担を軽減します。そのため、企業の資金繰りや投資判断に与えるインパクトは小さくありません。
政策目的としては、技術革新の促進、国際競争力の強化、生産性向上などが掲げられています。
賃上げ促進税制も大幅増
従業員の給与を増やした企業に対する賃上げ促進税制も拡大しました。
2024年度の減税額は約9560億円で、前年度比31%増です。適用件数は約29万4000件にのぼります。
この制度は、一定以上の賃上げを実施した企業に対して、給与増加額の一部を法人税額から控除する仕組みです。
特に2024年度からは、中堅・中小企業が活用しやすい制度設計に変更されました。その結果、対象企業が増加し、減税規模も拡大しました。
一方で、2026年度税制改正大綱では、2025年度末で大企業を対象から外す方針が示されています。今後は中小企業支援色がより強まる構造へ移行する見込みです。
租税特別措置という「見えにくい財政支出」
研究開発税制や賃上げ促進税制は、「租税特別措置」に分類されます。
租税特別措置とは、政策目的のために特定の行動をとった納税者の税負担を軽減する制度です。補助金とは異なり、歳出として予算に計上されないため、財政支出としては見えにくい特徴があります。
そのため、しばしば「隠れ補助金」との批判も受けます。
特徴を整理すると次のとおりです。
- 予算審議の枠外で拡大しやすい
- 期限延長が繰り返されやすい
- 効果検証が不十分になりやすい
減税額が2兆円規模に達している現状を踏まえると、財政への影響は決して小さくありません。
政策目的に対して本当に効果があるのか、費用対効果は妥当か、といった検証は今後も継続的に行う必要があります。
企業行動への影響をどう見るか
研究開発減税が拡大していることは、日本企業の研究開発投資が一定水準を維持していることの表れでもあります。
一方で、次の問いも生まれます。
- 減税があるから投資しているのか
- もともと投資予定だったものを後押ししているだけなのか
- 大企業偏重になっていないか
賃上げ促進税制についても同様です。
減税によって賃上げが促されたのか、それとも人手不足や物価上昇という経済環境が主因なのか。その因果関係は単純ではありません。
租税特別措置は「行動を誘導する税制」です。だからこそ、その誘導効果の検証が制度の正当性を支えます。
今後の論点
今後の議論の焦点は、大きく三つに整理できます。
第一に、減税規模の適正水準です。
財政制約が強まる中で、2兆円規模の税額控除をどう評価するかが問われます。
第二に、対象の絞り込みです。
賃上げ税制は大企業を外す方向ですが、研究開発税制についても企業規模別の効果検証が重要になります。
第三に、透明性と説明責任です。
租特透明化法に基づき実績は公表されますが、国民的な議論として十分かどうかは別問題です。
税は単なる財源確保手段ではなく、政策ツールでもあります。その設計は経済構造に直接影響します。
結論
2024年度、研究開発減税は初めて1兆円を超えました。賃上げ促進税制も拡大し、法人税の税額控除総額は2兆円規模に達しています。
これは、日本の税制が積極的に企業行動を誘導していることを意味します。
しかし同時に、それは「見えにくい財政支出」が拡大していることでもあります。
今後は、政策効果の検証、対象の適正化、透明性の確保という観点から、租税特別措置を不断に見直していくことが求められます。
減税は常に「良いこと」とは限りません。目的、効果、財政とのバランスを冷静に見極めることが、これからの税制議論には不可欠です。
参考
・日本経済新聞 2026年2月19日朝刊「研究開発減税1兆円超え 24年度の『租特』適用」
・財務省 租税特別措置の適用実態調査結果(2024年度)

