短期前払費用の落とし穴― 「1年以内」でも否認されるケース(調査官の指摘 vs 会社の言い分⑦)

税理士
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短期前払費用の特例(法基通2-2-14)は、経理担当者にとってありがたい制度です。
しかし「1年以内の費用なら前払で損金OK」と思い込むのは危険。
支出の実態・契約内容・支払方法によっては、調査官から否認されるケースもあります。

令和7年度の全国統一研修会では、代表的な3つの事例が紹介されています。


① 手形払いの前払費用 ― 「支払」したとは言えない?

事例
A社は翌年度分の保守契約料を、当期末に手形で支払。
契約期間は翌期4月から翌々年3月までの1年間。
会社は支出時に短期前払費用として損金算入しました。

調査官の指摘
手形支払日は翌期であり、当期に現実の支出がない
したがって前払費用の要件を満たさない。

会社の主張
当期末に手形を振り出しており、実質的に支払義務を履行している。

結論:調査官の指摘が正しい。

「支払」とは現金預金の減少を伴う行為を指し、手形の振出時点では債務の消滅が確定していない。
実際の手形決済時に支払が成立する(法基通2-2-14)。

実務ポイント

  • 手形決済日は翌期なら「支払済」とはならない。
  • 「短期前払費用」は現金主義的な概念であり、形式だけでは不可。

② 年間購読料・保険料 ― 「支払済」でも否認されるケース

事例
A社は専門誌の年間購読料(翌4月~翌年3月分)を当期に支払。
契約期間が1年以内のため、短期前払費用として全額損金算入。

調査官の指摘
契約更新を前提とする継続的な支払いであり、「1年以内の費用」ではなく反復継続契約に該当。
短期前払費用の適用対象外。

会社の主張
支払額も小さく、毎年契約を見直している。形式上は1年契約。

結論:調査官の指摘が正しい。

継続的契約(例:新聞・雑誌・保険料など)については、形式上の1年契約でも反復性がある場合は否認される
特例の対象は“一時的な前払い”に限られる。

実務ポイント

  • 年間購読料・保険料・会費など、継続的支出は要注意。
  • 「自動更新」「恒常的支出」は短期前払費用の対象外。
  • 契約更新時に「自動継続の明記」があるとアウト。

③ 自賠責保険料 ― 「1年超契約」は対象外

事例
A社は営業車の自賠責保険(24か月契約)を一括払い。
支払額を「支出事業年度分(12か月分)」のみに短期前払費用として損金算入しました。

調査官の指摘
契約期間が1年を超えるため、短期前払費用の特例の適用外
全額を支出時点で前払費用として資産計上すべき。

会社の主張
1年分に相当する部分だけなら損金算入が認められるはず。

結論:調査官の指摘が正しい。

「契約期間が1年を超えるもの」は、その一部を切り出しても短期前払費用に該当しない(法基通2-2-14(2))。

実務ポイント

  • 契約期間が1年超なら部分計上も不可
  • 「契約更新型」ではなく「単年度契約型」かどうかで判定。

🧾 まとめ ― 「短期前払費用」の3条件を再確認

判断基準損金算入可否認リスク
支払方法現金・預金支出が当期内手形払い・未払計上
契約期間1年以内(単発契約)1年超または自動更新契約
費用の性質一時的・非継続的定期的・反復的支出

💬 税理士の視点からの教訓

  • 「支払った=損金」は成立しない。実質的な現金支出と契約期間が鍵。
  • 短期前払費用を安易に活用すると、税務調査での修正リスクが高い。
  • 継続契約系支出(保険料・購読料・会費など)は「前払費用(資産計上)」で処理する方が安全。
  • 調査官は「形式よりも契約実態」を見る。契約書と支払記録の整合性を必ず確認。

📚出典
東京税理士協同組合 教育情報事業配布資料
「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」より


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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