老後のお金について不安を感じている方は多い一方で、「介護が必要になったとき、どこで、どのように暮らすのか」まで具体的に考えている方は決して多くありません。
自立している今の生活を前提に老後設計をしていても、体調の変化や介護の必要性は突然訪れます。そのときになって初めて高齢者施設を探し始めると、選択肢が限られ、結果として後悔につながるケースも少なくありません。
老後の安心を考えるうえで、高齢者施設の知識は、特別な人だけが知っていればよい情報ではなく、多くの人にとって欠かせないテーマになっています。
高齢者施設を知らないまま迎える老後のリスク
近年、介護にかかる費用が家計を圧迫し、生活の立て直しが難しくなるケースが増えています。
在宅介護が限界を迎え、施設入所を検討したものの、想定以上の費用がかかることが分かり、貯蓄が急速に減ってしまう。あるいは、有料老人ホームに入所した後、毎月の支払いが続かず、別の施設への住み替えを迫られる。こうした相談は決して珍しいものではありません。
老後のプランニングを「元気なうちは自宅で暮らす」という前提だけで組み立ててしまうと、介護が必要になった瞬間に計画が成り立たなくなるおそれがあります。
高齢期の住まいをどう考えるかは、老後資金の話と切り離して考えることはできません。
高齢者施設のイメージは意外と古い
高齢者施設について、「特別養護老人ホームは要介護3以上でないと入れない」「とにかく安いが順番待ちが長い」といったイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
確かに原則としては要介護3以上が対象とされていますが、認知症で日常生活に支障がある場合や、同居家族に介護力がない場合など、一定の条件を満たせば要介護3未満でも入所できるケースがあります。また、都市部を除けば、必ずしも長期間の待機が発生していない施設もあります。
費用面についても注意が必要です。
特別養護老人ホームでは、所得や資産が一定基準を超えると、居住費や食費の軽減措置を受けられなくなります。その結果、「特養=安い」と単純に言い切れないケースもあります。地域によっては、特養の費用に数万円上乗せすることで、有料老人ホームを選択できる場合もあります。
平均的な介護費用を一律に想定するだけでは、実際の暮らしに即した老後設計にはなりにくいのが現実です。
高齢者施設は「住み替え」を前提に考える
高齢者施設について考える際に重要なのが、「一度入ったら終わり」ではなく、住み替えが必要になる可能性があるという点です。
たとえば、自立または軽度の要介護状態で住宅型有料老人ホームに入所した後、医療行為が必要になり、その施設では対応できず、別の施設を探すことになるケースがあります。
胃ろうや24時間の看護体制が必要になると、介護付有料老人ホームや特別養護老人ホームなど、医療対応が可能な施設への住み替えが必要になります。
また、自立しているうちにサービス付き高齢者向け住宅などに住み替え、要介護状態になった段階で介護施設へ移る、という考え方もあります。
この場合、元気なうちに安心して暮らせる環境を確保しつつ、将来の選択肢も残すことができます。
高齢期の住まいは、一段階ではなく「複数段階」で考える視点が欠かせません。
早めの準備が満足度を高める
高齢者施設探しは、必要に迫られてから始めると、「今すぐ入れるところ」という基準で選ばざるを得なくなりがちです。その結果、立地や費用、サービス内容に不満を感じることがあります。
一方で、時間に余裕を持って情報収集をした人は、複数の施設を比較し、自分に合った選択ができる傾向があります。
在宅介護を希望している場合でも、将来の選択肢として施設入所の可能性を完全に排除せず、情報だけは持っておくことが安心につながります。
介護人材の不足や地域差を考えると、今後は在宅介護の環境がさらに厳しくなる可能性もあります。そうした現実も踏まえた準備が求められます。
老後の住まいを「自分で選ぶ」という視点
高齢者施設は、人生の最終段階を過ごす大切な場所です。
「お世話になる場所」と受け身で考えるのではなく、「自分で選ぶ住まい」として捉えることで、満足度は大きく変わります。
一般の方にとって、施設選びの基準や比較方法は分かりにくいものです。だからこそ、早めに知識を得て、自分なりの判断軸を持つことが重要です。
できれば65歳頃、遅くとも70歳頃までに、情報収集を始めておくと、心の余裕を持って老後を迎えることができます。
結論
老後の安心は、貯蓄額や年金額だけで決まるものではありません。
どこで、どのように暮らすかという「住まいの選択」を含めて考えることで、老後設計は初めて現実的なものになります。
高齢者施設について知ることは、不安を増やすためではなく、不安を減らすための準備です。
元気な今だからこそ、将来の選択肢を知り、自分らしい老後を考える時間を持つことが、結果として安心につながります。
参考
・日本FP協会「相談者に喜ばれる、FPが知っておきたい高齢者施設の知識」
・厚生労働省 高齢者介護・施設に関する各種資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

