貸付用不動産評価の見直しは、相続税評価の技術的問題にとどまりません。
その背後には、「相続税という資産課税は、今後も持続可能なのか」という根本的な問いがあります。
高齢化の進展、資産格差の拡大、金融商品の高度化、国際的な資産移動の活発化。相続税を取り巻く環境は大きく変化しています。
本稿では、相続税を資産課税としてどのように位置付けるべきか、持続可能性の観点から整理します。
相続税の役割とは何か
相続税には、大きく三つの機能があります。
第一に、再分配機能です。世代間で蓄積された資産の集中を緩和し、機会の公平を確保する役割です。
第二に、財源機能です。国・地方の財政を支える一部を担います。
第三に、資産移転の調整機能です。過度な資産集中を抑制し、社会的安定を保つ機能ともいえます。
相続税は単なる増税手段ではなく、社会構造を調整する税目です。
現在の相続税を取り巻く環境
現在の日本では、資産の多くが高齢世代に集中しています。
金融資産、不動産、株式などの保有は、世代間で偏在しています。
一方で、少子高齢化が進み、相続件数は増加傾向にあります。
資産移転の規模が拡大する中で、相続税の役割は相対的に重くなっています。
しかし同時に、評価の難しさや国際資産移動の拡大により、課税の実効性が問われる場面も増えています。
資産課税の難しさ
資産課税には構造的な難しさがあります。
第一に、評価の問題です。資産は常に市場価格が明確とは限りません。不動産、未公開株式、信託受益権など、評価には幅があります。
第二に、流動性の問題です。資産は必ずしも現金ではありません。納税資金の確保は常に課題となります。
第三に、国際的移動の問題です。資産は国境を越えて移動可能です。税制差を利用した移転も起こり得ます。
これらは、資産課税が恒常的に抱える問題です。
持続可能性の条件
相続税が持続可能であるためには、いくつかの条件があります。
・評価制度の透明性
・予測可能性の確保
・過度な租税回避の抑制
・納税資金対策との整合性
制度が不安定であれば、納税者の信頼は損なわれます。一方で、制度が甘ければ再分配機能は弱まります。
評価見直しは、この均衡を保つための調整の一例といえます。
国際的視点
国際的に見ると、相続税を廃止した国も存在します。
一方で、富裕層課税を強化する動きもあります。
資本移動が自由化された時代において、資産課税の設計は慎重さを要します。
過度な負担は国外移転を誘発し、課税基盤を縮小させる可能性があります。
持続可能性とは、理念だけでなく、実効性を伴うことを意味します。
市場との関係
相続税は市場と対立するものではありません。
むしろ、資産市場の健全な発展と調和する必要があります。
評価が市場価格と著しく乖離すれば、歪んだ資産選択を誘発します。
貸付用不動産評価見直しは、市場との整合性を高める方向の修正でした。
持続可能な相続税は、市場と適度な距離を保つ制度でなければなりません。
将来像
相続税が完全に市場価格連動型になる可能性は低いでしょう。
事務負担や予測可能性の問題があるからです。
一方で、市場との著しい乖離を放置する方向にも進まないと考えられます。
今後は、
・部分的市場連動
・透明性の高い補正規定
・国際情報交換の強化
などを通じて、制度の安定性と公平性を両立させる方向が想定されます。
本質的な問い
相続税は、資産課税として「完全な正解」を持ちません。
それは社会の価値観に依存する税目です。
資産集中をどこまで許容するのか。世代間の公平をどのように考えるのか。
評価制度の見直しは、その問いに対する一つの答えにすぎません。
持続可能性とは、制度が社会的合意を保ちながら機能し続けることです。
結論
相続税は、資産課税として今後も存続する可能性が高いと考えられます。
ただし、その形は固定的ではありません。
市場環境、国際情勢、社会の価値観に応じて、制度は調整され続けます。
貸付用不動産評価見直しは、その調整の一局面です。
持続可能な相続税とは、公平性・実効性・予測可能性の均衡を保ち続ける制度です。
その視点から、今後の制度動向を見守ることが重要です。
参考
・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
