相続税は再分配機能を本当に果たしているか――資産格差と世代間公平の視点から

税理士
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相続税は、しばしば「富裕層に課される税」と説明されます。

しかし本質的な役割は、それだけではありません。相続税は、世代間の資産移転に伴う格差の固定化を緩和する再分配税として位置付けられています。

では、現在の日本の相続税は、本当に再分配機能を果たしているのでしょうか。

貸付用不動産評価の見直しを契機として、相続税の再分配機能について改めて考えます。


再分配機能とは何か

再分配機能とは、経済的資源の偏在を是正し、社会全体の公平を確保する機能を指します。

所得税は現役世代の所得格差を調整します。一方、相続税は世代を超えた資産格差に作用します。

相続によって巨額の資産が無課税で移転すれば、経済的格差は世代を超えて固定化されます。

相続税は、その集中を一定程度抑制する役割を担っています。


日本の相続税の実態

現在の相続税は、基礎控除の引下げ以降、課税対象者が増加しました。

しかし、全体の相続件数に占める課税割合は限定的です。

また、税収全体に占める割合も大きいとはいえません。

つまり、相続税は社会全体に広く課される税ではなく、一定規模以上の資産に限定して作用する税目です。

その意味で、強い累進性を持つ選択的再分配税といえます。


評価制度と再分配

再分配機能の実効性は、評価制度に大きく依存します。

市場価格と著しく乖離した評価が認められれば、実質的な課税ベースは縮小します。

貸付用不動産評価見直しは、評価差を利用した圧縮を是正する方向です。

これは、再分配機能の実効性を高める調整ともいえます。

公平な評価なくして、再分配の公平も成立しません。


限界も存在する

もっとも、相続税の再分配機能には限界もあります。

第一に、資産の分散化です。生前贈与、法人化、海外移転など、資産は多様な形で分散可能です。

第二に、資産の種類による差です。不動産、非上場株式、信託商品など、評価の難易度が異なります。

第三に、世代内格差との関係です。相続税は世代間格差に作用しますが、同世代内の所得格差を直接是正するものではありません。

再分配は単一税目で完結するものではなく、税制全体の設計に依存します。


世代間公平という視点

再分配を考えるうえで重要なのは、世代間公平です。

若年世代は所得が伸び悩み、住宅取得や資産形成に困難を抱える場合があります。

一方で、高齢世代には多くの金融資産や不動産が蓄積されています。

相続税は、この世代間資産移転に一定の調整を加える仕組みです。

ただし、過度な負担は家族経営や中小企業の承継に影響を与える可能性があります。

再分配と経済活力の均衡が求められます。


社会的合意の重要性

相続税の持続可能性は、社会的合意に依存します。

再分配を重視する社会では、相続税は支持されやすくなります。

一方で、家族の資産承継を尊重する価値観が強まれば、負担軽減の方向に議論が進む可能性もあります。

評価見直しは、制度の正当性を維持するための調整ともいえます。

再分配機能が形式化すれば、制度への信頼は低下します。


本当に果たしているのか

現状の相続税は、一定の再分配機能を果たしているといえます。

しかし、それは限定的です。

評価制度の整合性、課税範囲の設計、国際的対応など、多くの要素が絡み合っています。

貸付用不動産評価見直しは、再分配機能の実効性を部分的に補強する措置です。

それでも、相続税単独で格差問題を解決することはできません。


結論

相続税は、資産課税として一定の再分配機能を果たしています。

しかし、その機能は評価制度の精度と社会的合意に依存します。

貸付用不動産評価見直しは、制度の公平性を回復し、再分配機能を維持するための調整です。

再分配は理念だけでは成立しません。実効性と予測可能性を伴う制度設計が不可欠です。

相続税の将来を考える際には、税額の多寡ではなく、制度の整合性と社会的役割を総合的に見極めることが求められます。


参考

・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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