相続税を考えるとき、避けて通れないのが「不動産の評価」です。特にマンションや賃貸用物件、小口化された不動産商品などは、実際の市場価格と相続税評価額に差が生じやすいことから、これまでも節税対策の手段として注目されてきました。
2024年11月、政府税制調査会の専門家会合で、国税庁が「財産評価を巡る諸問題」と題した資料を提示し、不動産評価のあり方に関する問題意識を公にしました。これは、今後の制度見直しの方向性を考えるうえで大きな意味を持ちます。
本稿では、専門家会合のポイントを一般の人にも分かりやすく整理し、「どこが問題で、将来どんな見直しがあり得るのか」を丁寧に解説します。
1 財産評価基本通達6項とは
相続税や贈与税で不動産を評価するときは「財産評価基本通達」というルールに従います。その中にある「6項」は、通達に具体的な定めがない場合に採用される“例外的な評価方法”で、実務上は柔軟な判断が求められます。
しかし、最近では
- 評価が担当者ごとに異なる
- 納税者が結果を予測しにくい
といった批判も出ており、国税庁自身が「予見可能性の観点から問題が指摘されている」と認めています。
ここから、国税庁内でも“6項の扱いを見直す必要がある”という意識が高まっていることが読み取れます。
2 マンション評価を巡る最新の動き
2024年(令和6年)から、区分所有マンション(一般的な1室ごとのマンション)については、実勢価格と評価額の乖離を是正する「マンション通達」が適用されています。
ただし、
- 一棟丸ごと所有する賃貸マンションには適用されない
という点が残されています。
国税庁は、この「一棟所有マンション」を使った相続税対策が散見されると指摘し、問題意識を明確にしました。
現状では“個別対応せざるを得ない”と説明しており、将来の制度改正の対象となる可能性があります。
3 賃貸不動産の「市場価格」と「通達評価額」の乖離
国税庁が特に問題視しているのは、賃貸用不動産の市場価格と通達評価額の乖離です。
- 賃貸割合が高く、稼働率が良い不動産は市場価格が高くなる
- しかし、通達評価額は借家人がいるほど低くなる
つまり、
「しっかり稼働している優良物件ほど、市場では高値がつくのに、相続税評価では逆に低い」
という矛盾があるということです。
こうした“評価の逆転現象”は長く議論されてきましたが、国税庁が会議で改めて問題点として挙げたことにより、今後、賃貸物件の評価ルールが見直される可能性が高まっています。
4 不動産小口化商品の評価も議論の対象に
近年増えている「不動産小口化商品」(不動産を複数人で分割所有する仕組み)についても、贈与や相続の現場で活用される事例が増えています。
国税庁は、
- 実際の贈与事例の提示
- 相続税対策として利用されている状況
を資料で示し、評価額と市場価格の乖離が課題であることを明確にしました。
不動産小口化商品は仕組みが複雑なため、評価ルールが曖昧なまま相続税対策に使われることへの懸念が高まっています。
5 国税庁の問題意識が公に出た意味
今回の専門家会合で国税庁が示した資料は、“ただの説明”ではありません。国税庁が
- 評価体系そのものの課題を認識している
- 特定の対策スキームが問題化している
- 将来の制度改正につながる論点が整理されつつある
というシグナルだと考えられます。
特に、
- 一棟所有マンション
- 小口化商品
- 賃貸不動産の評価の逆転現象
などは、いずれも実務上の影響が大きく、制度変更が行われれば相続税対策の考え方が大きく変わる可能性があります。
結論
今回の専門家会合で示された国税庁の資料は、相続税の「不動産評価」をめぐるルールが今後変わる可能性を示唆しています。これまで相続税対策として一般的だった手法が、将来的には見直される可能性も否定できません。
現時点では、
- 制度改正はまだ具体化していない
- 今すぐ評価方法が変わるわけではない
ものの、方向性としては“評価の適正化・透明化”へ動きつつあることは確かです。
不動産を使った相続税対策を検討している人は、今後の議論を注視しつつ、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが大切だといえます。
出典
・政府税制調査会(2024年11月13日)専門家会合資料
・国税庁「財産評価を巡る諸問題」資料
・相続税法・財産評価基本通達
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
