相続を前提にしない老後設計――長寿時代の資産観を問い直す

税理士
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老後設計を考えるとき、多くの人が無意識に「どれだけ残せるか」という視点を持っています。

子どもに迷惑をかけたくない。できれば資産を残したい。そうした思いは自然なものです。

しかし、長寿化が進む現在、「相続を前提にしない老後設計」という発想も重要になっています。

資産は本来、生活を支えるためのものです。残すことを目的にしすぎると、本来の機能が損なわれる可能性があります。

本稿では、相続を前提にしない老後設計の考え方を整理します。


老後設計の目的は何か

老後設計の第一目的は、「安心して生活を続けること」です。

・生活費の安定確保
・医療・介護への備え
・住まいの維持
・精神的な安心

これらが基盤です。

相続は、その結果として残る財産の問題です。順序を逆転させるべきではありません。


長寿リスクという現実

平均寿命の延伸により、老後期間は20年、30年に及ぶことも珍しくありません。

資産を取り崩さずに温存する設計は、長寿リスクを過小評価する可能性があります。

取り崩しを避け続けた結果、晩年に生活水準を下げざるを得ない状況になれば、本末転倒です。

老後設計は、残す前提ではなく「使う前提」で組み立てる必要があります。


年金を基盤にする

公的年金は終身給付です。

年金を生活基盤とし、不足分を資産で補う構造が基本です。

年金繰下げなどの選択肢も、生活保障を厚くする観点から検討します。

資産は、年金を補完する役割を持ちます。

この構造を明確にすることで、資産の役割が整理されます。


資産の「取り崩し」は悪ではない

多くの人は、資産を減らすことに心理的抵抗を持ちます。

しかし、資産は活用してこそ意味があります。

・生活の質を維持する
・医療・介護に備える
・住環境を整える
・人生の満足度を高める

これらは正当な使途です。

資産の取り崩しは、失敗ではなく計画の一部です。


相続を意識しすぎることの影響

相続を強く意識しすぎると、

・過度な節約
・生活水準の抑制
・資産構成の固定化

といった行動につながることがあります。

その結果、本人の生活満足度が低下する可能性があります。

老後設計は、自身の人生の充実を優先すべきです。


家族との対話

相続を前提にしない設計は、家族との対話を必要とします。

「残せる分は残すが、生活を優先する」という考え方を共有することが重要です。

過度な期待を前提としない設計は、将来のトラブル防止にもつながります。

相続設計は、資産額だけでなく、価値観の共有が核心です。


制度との整合

税制や社会保障制度は、生活保障を支えるために存在します。

貸付用不動産評価見直しや資産課税の議論は、制度の整合性を保つための調整です。

個人の老後設計も、制度の枠組みを踏まえて構築する必要があります。

制度に依存しすぎず、制度を前提にした設計が求められます。


現実的な設計手順

相続を前提にしない老後設計は、次の順序で考えます。

  1. 生活費の基礎水準を確定する
  2. 年金収入との関係を整理する
  3. 医療・介護リスクを想定する
  4. 流動資産の取り崩し計画を立てる
  5. 残余資産について承継設計を検討する

この順序が逆転しないことが重要です。


結論

相続を前提にしない老後設計とは、「残すこと」よりも「安心して生きること」を優先する設計です。

資産は、人生を支えるための手段です。

長寿時代においては、取り崩しを含めた計画的活用が不可欠です。

そのうえで残る財産を、合理的に承継する。

この順序が、持続可能な資産設計の核心です。

老後設計と相続設計は対立するものではありません。

ただし、優先順位を明確にすることが重要です。


参考

・自由民主党・日本維新の会 令和8年度税制改正大綱
・財産評価基本通達
・最高裁令和4年4月19日判決 解説資料


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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