生成AIがもたらす「新しい格差」――ChatGPT時代の働き方と賃金の行方

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ChatGPTが登場してからもうすぐ3年。
生成AIの利用は一気に広がり、いまや「調べもの」や「文章作成」だけでなく、日々の仕事の現場にまで浸透しています。

米ハーバード大学のデビッド・デミング教授とOpenAIの研究チームによる最新の調査では、全人口の約10%が週に1度はChatGPTを利用しているとのこと。特に高学歴層や専門職に利用が広がり、利用目的の約8割が「実務的な助言」「情報収集」「文章作成」に関するものだといいます。

私自身も日々、AIと向き合う立場として感じるのは、「AIを使う人」と「使わない人」の差が、じわじわと仕事の質とスピードに影響しはじめているということです。


3つの研究アプローチが示す、AIと労働の関係

生成AIが雇用・生産性・賃金にどのような影響を与えるのか。
経済学の世界では大きく3つの視点から研究が進められています。

① どの職業がAIに「置き換えられやすい」かを測る研究

英オックスフォード大学のカール・フレイ氏とマイケル・オズボーン氏の2013年の研究は有名です。
彼らは「10〜20年以内に米国の職業の47%がAIや機械で代替可能」と試算し、当時は大きな衝撃を与えました。

ただ実際には、技術的に可能であっても職がすぐになくなるわけではない
むしろ、AIと人間が役割を分担しながら仕事の質を変えていく流れが主流になっています。

国際労働機関(ILO)の2025年5月の報告書では、

  • 世界の労働者の4人に1人が生成AIの影響を受ける
  • 最も影響を受けるのは「事務職」
  • 高所得層・女性ほどAIに暴露しやすい
    という特徴が明らかになっています。

② 実際にAIを使ったグループと使わないグループを比べる実験研究

MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究では、ライターにChatGPTのような生成AIを使わせたところ、執筆時間が短縮され、原稿の質も向上しました。しかも、効果はスキルが低い人ほど大きかったのです。
つまり、AIは「労働者の生産性を平準化する」力を持っているということです。

同様に、スタンフォード大学の研究でも、AIがカスタマーセンターのオペレーターを支援することで顧客満足度が上昇し、特に初心者のパフォーマンス向上が顕著でした。

AIは“熟練者の経験”を学び、それを全員に共有する――
この構造が、生産性格差の縮小につながっていると考えられます。

③ 経済全体のデータでAIの影響を分析する研究

こちらはまだ新しい分野ですが、2025年に入って注目論文が出ています。

デンマークの研究チームは、AI利用者と非利用者を比較した結果、所得や労働時間に大きな差はまだ見られないと報告。
一方で、米国の研究では、AIを「補完的」に活用する産業ほど雇用・賃金が上昇しているという結果が出ています。
逆に、AIが人の代わりをする「代替的」な産業では、雇用も賃金も減少傾向でした。


AIは格差を縮める? それとも広げる?

これらの研究を総合すると、次のような傾向が見えてきます。

  • 同じ職業の中では、AIがスキル格差を埋め、生産性のばらつきを減らす(=平準化効果)
  • しかし、職業間ではAIを活かせるかどうかで格差が拡大する(=職業間格差の拡大)

つまり、「AIを使える仕事」と「使えない仕事」の差が、新しい格差を生み出していくのです。

たとえば、AIと補完的な関係にある専門職――
エンジニア、デザイナー、コンサルタント、ライターなどは、AIによって生産性が上がり、賃金も上昇する可能性が高い。
一方、AIが自動化しやすい単純事務や定型業務は、賃金上昇の波に乗りにくい構造になります。


「AI格差社会」にどう向き合うか

私が経理や税務の現場で感じるのは、AIによる効率化が「人の仕事を奪う」のではなく、「仕事の質を再定義する」動きになっているということです。
ChatGPTの登場からわずか数年で、私たちがAIに求める役割は“回答する存在”から“伴走するパートナー”へと変わりつつあります。

重要なのは、AIに「使われる側」ではなく、「使いこなす側」に回ること。
AIを恐れるのではなく、自分の知識・経験と掛け合わせて価値を生み出す力が問われているのだと思います。


まとめ:生成AIは格差を“写す鏡”

生成AIは魔法ではありません。
それは、私たちの社会や働き方をそのまま“写す鏡”のような存在です。
AIによって格差が生まれるのではなく、AIが既存の格差を可視化し、拡張する――
その現実を直視したうえで、どう活用し、どう支え合う社会をつくるかが問われています。

AIが広げる格差の波を前に、私たちはどんなスキルを磨き、どう学び続けるのか。
「生成AIとともに生きる時代」の本当の課題は、ここにあるのかもしれません。


出典:2025年10月6日 日本経済新聞朝刊
「AIと雇用(中) 新たな格差に注意が必要」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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