国内金利の上昇を受け、企業年金の運用環境が大きく変わりつつあります。これまで長らく低金利に苦しんできた元本確保型運用に、ようやく「利回り」という選択肢が戻ってきました。
そうした中で注目されているのが、生命保険会社が提供する企業年金向けの利率保証型保険、いわゆる確定利付き型保険(GIC)です。日本生命保険の新規参入検討や、第一生命保険による利率引き上げの動きは、企業年金運用の潮目が変わりつつあることを象徴しています。
本稿では、GICがなぜ今注目されているのか、従来の一般勘定との違い、そして企業年金側が押さえておくべき注意点について整理します。
GICとは何か――一般勘定との決定的な違い
GICは、一定期間の利率を契約時に確定させ、その利率で運用する企業年金向けの商品です。運用期間は5年や10年といった中期が中心で、元本が保証される点が大きな特徴です。
これに対し、従来から生保が提供してきた一般勘定は、予定利率をベースに無期限で運用されます。運用実績に応じて配当が付くこともありますが、予定利率は市場金利に即応して頻繁に変更できるものではありません。
結果として、金利上昇局面では一般勘定の利率は上がりにくく、企業年金側から見ると「物足りない商品」になりがちでした。GICは、この弱点を補う形で、市場金利を比較的迅速に反映できる点に強みがあります。
なぜ今、生保がGICを強化するのか
生保各社がGIC販売を再び強化し始めた最大の理由は、国内金利の上昇です。日銀の金融政策修正やインフレ経済への転換を背景に、国債や社債の利回りが上昇しました。
これにより、生保は債券運用を通じて、以前よりも魅力的な利率を提示できる環境が整いました。第一生命保険が5年物で国債利回りを上回る水準を提示していることは、その象徴と言えます。
また、信託銀行や運用会社が先行してきた企業年金市場において、生保は「出遅れ感」を抱えていました。GICは、生保が再び競争力を持つための切り札として位置付けられています。
中堅・中小企業年金にとっての意味
GICが特に想定している顧客層は、中堅・中小企業の企業年金です。
大手企業年金は、オルタナティブ資産や高度な分散投資に取り組む余地がありますが、中堅以下の企業年金では、専門人材や運用ノウハウが不足しがちです。その結果、リスクを抑えた運用に偏り、低利回りを甘受せざるを得ないケースも少なくありません。
全国に拠点網を持つ生保は、こうした企業年金と長年の関係を築いてきました。GICは、元本確保と一定の利回りを両立させたいというニーズに合致しやすく、導入のハードルも比較的低い商品です。
GICのメリットと見落とされがちなリスク
GICの最大のメリットは、利率が契約時に確定し、元本が保証される点です。さらに、通常の債券運用と異なり、途中で市場金利が上昇しても、含み損を会計上認識する必要がありません。これは、長期運用を前提とする企業年金にとって大きな利点です。
一方で、注意点もあります。GICは途中解約を前提とした商品ではなく、原則として満期まで保有することが求められます。途中解約を行えば、元本割れのリスクが生じます。
また、契約後に市場金利がさらに上昇した場合、より高利回りの商品に乗り換える柔軟性は失われます。「今の利率が魅力的だから」という理由だけで資金を固定化しすぎることには慎重であるべきです。
企業年金運用における位置付けをどう考えるか
GICは、企業年金ポートフォリオ全体の中で「安定収益部分」を担う商品として位置付けるのが現実的です。
すべての資金をGICに振り向けるのではなく、一般勘定、国内債券、場合によっては株式やオルタナティブ資産と組み合わせることで、リスクとリターンのバランスを取ることが重要です。
生保側も、単なる商品販売にとどまらず、GICを起点としたポートフォリオ提案ができるかどうかが、今後の評価を左右すると言えるでしょう。
結論
利率保証型保険(GIC)は、金利上昇局面において、企業年金運用に新たな選択肢をもたらしています。特に中堅・中小企業年金にとっては、元本確保と一定の利回りを両立できる現実的な手段です。
一方で、資金拘束や金利上昇リスクといった側面も理解したうえで、ポートフォリオ全体の中でどう位置付けるかが重要になります。
生保各社の攻勢は、企業年金運用の底上げにつながる可能性を秘めていますが、その成否は「商品」ではなく「使い方」にかかっていると言えるでしょう。
参考
・日本経済新聞「生保の企業年金向け保険、利率保証型で攻勢」(2026年1月22日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
