生成AIの急速な普及が雇用や働き方に大きな影響を与えています。事務系業務の多くがAIで自動化され、専門職でさえ将来的な代替リスクを感じる時代になりました。さらに実質賃金の伸び悩みや円安・資源高など、家計を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした中で、個人が生活を守るためにどのような選択肢を持てるのか。この記事では「世界株投資」を“生活の保険”として位置づけ、その意義と考え方を整理します。
1 AIがもたらす雇用リスクと家計への影響
生成AIは、これまで専門性が必要とされてきた領域にも入り込みつつあります。計算・資料作成・管理業務などの事務系タスクは特に代替リスクが高く、企業はAIの活用を背景に人員配置を見直し始めています。海外ではすでにテック企業を中心にリストラが進み、日本企業でも同様の動きが広がる可能性があります。
AIが普及することで企業の生産性が高まる一方で、労働市場には不安定さが生まれ、個人が収入を安定的に得ることが難しくなるリスクがあります。従来型の働き方だけでは生活が守りにくくなる局面に入りつつあります。
2 実質賃金を押し下げる構造変化
低迷が続く実質賃金にも構造的な要因があります。
- 時間当たり労働生産性は過去20年間、欧州に劣らない伸び
- しかし労働分配率は2000年度の7割超から現在は6割強まで低下
- 輸出物価と輸入物価の関係を示す交易条件は長期的に悪化傾向
企業が利益を出しても、その多くが労働者に還元されず、株主や内部留保に回りやすい構造にあります。実質賃金が伸びにくい背景には、こうした企業パワーバランスの変化があります。
3 「金融抑圧」とインフレ税が家計負担を増やす構図
政府は巨額の債務を抱えており、金利を大きく引き上げることが難しい状況です。このため、物価上昇率より金利を低く抑える「金融抑圧」が長く続く可能性があります。
実質金利がマイナスとなり、現金の価値は目減りし続けます。
結果として次の現象が生じます。
- 円安が進みやすい
- 不動産や株式などの実物資産にマネーが流れやすい
- 預金を持ち続ける人は目減りし、資産を保有する人との格差が広がる
これは「インフレ税」とも呼ばれる、家計から政府への所得移転が進む状態です。
4 世界株投資が“生活防衛”となり得る理由
こうした環境下では、勤勉に働き続けるだけでは生活を守りきれない局面が見えてきます。だからこそ、資産形成を「もう一つの働き方」として位置づける発想が重要になります。
特に世界株投資には次の意味があります。
① AIで生産性が向上する企業の成果を取り込める
AI導入で効率化が進む企業は利益率が上昇し、株価が伸びやすい傾向があります。個人がそれを取り込む手段として世界株投資は有効です。
② 労働分配率の低下は株主への配分増につながる
企業の利益のうち賃金に回る割合が減る一方で、株主への配分は増加。これは株式保有者が恩恵を受ける構造を強めています。
③ 日本の交易条件悪化は海外企業の収益増につながる
円安・資源高により、日本企業の利益は圧迫されやすい一方で、海外企業は収益を伸ばしやすい環境にあります。世界株投資はその恩恵を享受する方法になります。
5 個人投資家が取るべき実践的スタンス
世界株投資が有効だからといって、個別株を選ぶことは非常に難易度が高い領域です。どの企業がAIで飛躍するかを予測するのは困難です。
そこで現実的な選択肢は投資信託を活用した分散投資です。
推奨されるポイントは以下です。
- 全世界株インデックスを軸にする
- 長期投資を前提にする
- 時間分散(つみたて投資)で取得価格を平準化
- 短期の株価割高感に左右されず、数十年単位で構える
「働いて得る所得」と「資産が生む所得」の両輪を持つことが、AI時代を生き残る鍵となります。
結論
AIによる仕事の再定義、実質賃金の構造的停滞、金融抑圧によるマイナス実質金利など、家計を取り巻く環境はこれまでとは大きく異なっています。この状況では、「世界株投資」を生活防衛策として位置づける必要性が高まっています。
勤勉さだけに依存しない、複数の収入源を持つ生き方が求められる時代です。世界の企業の成長を家計に取り込む仕組みを持つことは、これからの日本の個人にとって不可欠な資産戦略だと言えます。
参考
・日本経済新聞「生き残るための世界株投資」(2025年12月9日朝刊)
・労働分配率、実質賃金、金融抑圧に関する各種統計資料(本文内容の補足として参照)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

