厚生労働省が2026年度にも社会福祉法を改正し、一人暮らしの高齢者が食事や入浴、外出の介助といった福祉サービスをより使いやすくする仕組みを整えようとしています。
背景には、日本の高齢化と独居高齢者の急増があります。内閣府の「高齢社会白書」によれば、一人暮らしの65歳以上は2020年に674万人でしたが、2050年には1084万人と6割以上増える見込みです。家族の支えが得られにくい中、生活を支える新しい仕組みは待ったなしといえます。
「日常生活自立支援事業」の見直し
現在、認知症や知的障害のある人を対象に、社会福祉協議会(社協)が金銭管理や福祉サービス利用の手続きを代行する「日常生活自立支援事業」が行われています。
しかし対象範囲が限定的で、独居高齢者は利用できないケースが多いのが課題でした。今回の改正案では、独居高齢者にも対象を広げ、福祉サービスの利用手続きや入退院・施設入所・死後の葬儀・納骨なども社協やNPOが代行できるようにする方針です。
利用料は1回あたり1200円程度と比較的低額で、国や自治体から社協に最大600万円の補助も予定されています。
民間サービスとの違い
すでに「高齢者等終身サポート事業」といった民間サービスも広がっており、全国に約400の事業者があります。入院費の支払い代行や死後の手続き支援などを担っていますが、契約時に預託金として200万円前後が必要になるケースが多く、資金に余裕がある人に限られてきました。
これに対して、今回の制度改正は公的支援の枠組みの中で、より幅広い高齢者が利用できるようにする点が大きな特徴です。
期待される効果と今後の課題
制度が広がれば、家族のいない高齢者が安心して地域で暮らし続けられる環境が整います。一方で、支援対象者の範囲や利用者負担の在り方など、具体的な制度設計は今後の検討課題です。
また、代行サービスの担い手をどこまで広げるかも重要です。社協だけでなく、社会福祉法人やNPOなど多様な担い手が参入できる仕組みにすることで、地域に合った柔軟な支援体制が整うことが期待されます。
税理士・FP視点:費用負担と相続への影響
独居高齢者の支援制度を考えるうえで、税理士・FPの視点から重要なのは「費用負担」と「相続への影響」です。
1. 費用負担の整理
- 公的サービスの場合
利用料は1回あたり1200円程度で、補助金もあるため比較的低廉に抑えられています。これにより、経済的に余裕のない高齢者でも利用可能になる点が大きなメリットです。 - 民間サービスの場合
契約時に200万円前後の預託金が必要となるケースが多く、まとまった資金準備が前提となります。これらは預り金として将来の入院費や葬儀費用に充てられる一方、事業者破綻リスクや契約条件の制約を確認する必要があります。
FPとしては、「最低限の安心を確保するなら公的制度」「手厚い支援や死後事務委任まで備えたい場合は民間サービス」と、本人の資産規模や希望に応じて併用を検討するアドバイスが現実的です。
2. 相続との関係
- 預託金の扱い
民間サービスに支払った預託金は、本人死亡時に葬儀・納骨費用に充当されるため、相続財産から直接支出するより手続きがスムーズになります。遺族の負担軽減という意味では有効ですが、その分、相続財産は減少します。 - 死後事務委任契約との違い
近年広がる「死後事務委任契約」は、弁護士や司法書士が死後の手続きを担う制度です。こちらは契約時の費用と死後の実費が必要で、遺言や信託と組み合わせるケースもあります。福祉サービスによる代行は、こうした法的サービスと補完関係にあります。 - 遺産分割への影響
葬儀費用は通常、相続財産から支払われる「相続債務」にあたりますが、事前に代行サービスへ預託していれば相続財産から控除された状態で分割協議を行うことになります。相続人間のトラブルを未然に防げる点も評価できます。
3. FPとしての提案
- 資産規模が小さい方は、公的制度の利用を前提に最低限の生活支援を確保する。
- 資産規模が大きい方は、民間サービスや死後事務委任契約を組み合わせ、相続計画と合わせて総合的に設計する。
- 事前に遺言・信託・任意後見制度とあわせて設計しておくことで、より安心できる老後と円滑な相続が実現できる。
まとめ
制度改正によって独居高齢者が安心して生活できる基盤が整えば、「人生100年時代」を支える大きな一歩になります。さらに、費用負担や相続への影響を意識して制度や民間サービスを上手に組み合わせることが必要と思われます。
(参考:日本経済新聞(2025年9月11日付))
ということで、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、引き続きよろしくお願いします。