租税特別措置の多くは期限付きで設計され、毎年のように延長されています。いわゆる「日切れ」の常態化です。
政策目的を持つ特例が長期にわたり延長され続けるのであれば、それは本則に組み込むべきではないか。こうした疑問は以前から指摘されています。
本稿では、特例の本則化という選択肢の可能性と課題を整理します。
特例と本則の違い
税法体系は、大きく分けて「本則」と「特例」によって構成されています。
本則は、税体系の基本構造を定める恒久的なルールです。
一方、特例は政策目的のための例外措置として、租税特別措置法などにより設けられます。
本則は中立性・安定性を重視しますが、特例は誘導性・政策目的を重視します。この性格の違いが、制度設計の根幹にあります。
本則化が検討される場面
特例が長期間延長され、利用実績も安定している場合、「もはや例外ではない」と評価されることがあります。
例えば、
- 恒常的な研究開発支援
- 中小企業の投資減税
- 住宅取得支援策
などは、長年延長が繰り返されてきました。
本則化を検討する場面は、次のような場合です。
1.政策目的が恒常的である
2.効果が一定程度確認されている
3.経済活動に不可欠な制度となっている
この条件が満たされれば、本則化の議論が生じます。
本則化のメリット
1.税制の安定性向上
期限延長のたびに制度が揺らぐ状況は、企業や個人の意思決定に不確実性をもたらします。本則化すれば、予見可能性が高まります。
2.実務負担の軽減
毎年の改正対応や適用期限の確認は、企業の経理部門や税務実務に負担をかけます。本則化は、こうした事務コストを減らします。
3.政策の透明化
長年延長される特例は、事実上の恒久措置となっています。本則化により、制度の位置付けが明確になります。
本則化の課題
しかし、本則化には慎重な検討が必要です。
1.財政硬直化の懸念
特例は「見えない歳出」と言われます。本則化すれば、減収が恒常化します。財政制約が強い中で、柔軟な政策調整が難しくなります。
2.税制の中立性との緊張
本則は本来、経済活動に対して中立であることが求められます。特定分野への優遇を本則に組み込むことは、中立性の観点から慎重であるべきです。
3.政策評価機能の低下
期限付きであることは、政策効果の検証を制度的に担保します。本則化すれば、その検証の機会が減少する可能性があります。
制度再設計の視点
本則化の是非を考える際には、単純な「延長か恒久化か」という二択ではなく、制度再設計の視点が重要です。
例えば、
- 優遇幅を縮小して本則に組み込む
- 対象範囲を限定する
- 予算措置に転換する
といった選択肢があります。
税制で行うべき政策なのか、それとも歳出政策として行うべきなのか。この切り分けも重要です。
今後の税制改正への示唆
令和8年度税制改正でも、多くの特例が期限を迎えます。延長が続く中で、次の問いが浮かびます。
- 本当に特例のままでよいのか
- 恒久化すべきものはないか
- 逆に整理すべきものは何か
税制は静的な制度ではありません。社会構造や産業構造の変化に応じて再設計されるべきものです。
特例の本則化は、単なる技術論ではなく、税体系全体のあり方を問う論点です。
結論
特例の本則化という選択肢は、制度の安定性向上という利点を持ちます。しかし、財政規律や税制の中立性とのバランスを慎重に検討する必要があります。
重要なのは、延長を惰性的に繰り返すことではなく、政策目的と効果を検証した上で、恒久化・縮小・廃止のいずれかを選択することです。
税制再設計の議論は、単年度改正を超えた中長期的視点で行われるべき段階に入っています。
参考
・租税特別措置法
・令和8年度税制改正大綱(与党税制調査会、2025年12月公表)
・財務省 税制改正の解説資料(各年度)
