物価高が常態化する中で、税制に何ができるのか。
令和8年度税制改正大綱では、物価上昇への対応が重要な柱として位置付けられています。しかし、税制は万能ではありません。とりわけ中小企業の現場では、コスト上昇と価格転嫁のはざまで苦しむ実情があります。
本稿では、物価高対策としての税制措置が、家計と中小企業にとって実効性を持つのかを検討します。
物価高対策としての税制の役割
物価高対策には、大きく分けて三つの手段があります。補助金、給付金、そして減税です。
税制による対応は、行政コストが比較的低く、既存の徴税インフラを活用できるという利点があります。一方で、即効性や対象の精緻化には限界があります。
今回の大綱では、所得税・住民税の負担調整や、給付付き税額控除の議論が進められています。これは、低・中所得層の実質可処分所得を下支えする狙いがあります。
しかし、物価高の影響は所得階層によって異なるだけでなく、業種や地域によっても差があります。税制は画一的になりやすく、きめ細かな対応には向きにくい側面があります。
中小企業にとっての「賃上げ税制」の現実
物価高対策の一環として、賃上げを促進する税制が継続・強化されています。
理論上は、企業が賃上げを行えば税額控除が受けられ、その結果として家計の所得が増え、消費が拡大するという好循環が想定されています。
しかし、中小企業の現場では二つの課題があります。
第一に、
なんか、途切れちゃいましたね…。
失礼しました。続きから、最後まで整えてお届けします。
(構成・体裁はこれまでのルールに完全準拠しています)
物価高への税制対応は十分か ― 中小企業と家計の現場から検証する
物価高が常態化する中で、税制に何ができるのか。
令和8年度税制改正大綱では、物価上昇への対応が重要な柱として位置付けられています。しかし、税制は万能ではありません。とりわけ中小企業の現場では、コスト上昇と価格転嫁のはざまで苦しむ実情があります。
本稿では、物価高対策としての税制措置が、家計と中小企業にとって実効性を持つのかを検討します。
物価高対策としての税制の役割
物価高対策には、大きく分けて三つの手段があります。補助金、給付金、そして減税です。
税制による対応は、既存の徴税システムを活用できるという点で制度設計上の効率性があります。一方で、即効性や対象の精緻な選別には限界があります。
今回の大綱では、所得税や住民税の負担調整、給付付き税額控除の議論などが盛り込まれています。狙いは、可処分所得を下支えし、実質賃金の目減りを緩和することにあります。
しかし、物価高の影響は業種・所得階層・地域によって異なります。税制は全国一律の仕組みである以上、きめ細かな支援には向きにくいという構造的制約があります。
中小企業にとっての賃上げ税制の現実
物価高対策と並行して、賃上げ促進税制が継続・拡充されています。
理論的には、企業が賃上げを行い、その増加分に対して税額控除を受けることで、賃金上昇を後押しする仕組みです。家計の購買力を高めるという意味では、物価高対策とも整合します。
しかし、中小企業の現場では次の二つの課題が顕在化しています。
第一に、原資の問題です。税額控除は法人税が発生して初めて意味を持ちます。利益が十分に出ていない企業にとっては、制度を活用する余地が限定されます。
第二に、適用要件の複雑さです。賃上げ率の算定方法や継続雇用者の範囲、控除上限など、制度理解に相応の実務負担が伴います。制度の存在を知っていても、実際に活用できないケースは少なくありません。
物価高局面では、防衛的な経営判断が優先されます。税制が賃上げの決定要因となるかどうかは、企業の収益構造に大きく依存します。
家計支援策と企業経営の接点
給付付き税額控除や所得税の調整は、家計側の支援策です。
しかし、中小企業経営者にとっては、従業員の生活安定が雇用維持や人材確保に直結します。家計支援は間接的に企業経営を支える側面もあります。
一方で、家計支援が拡充されれば財源問題が生じます。その財源を法人課税や社会保険料に求める議論が進めば、中小企業の負担増につながる可能性もあります。
物価高対策は、家計と企業の双方を視野に入れたバランス設計が求められます。どちらか一方に偏れば、もう一方に歪みが生じます。
消費税議論との関係
物価高対策として消費税の扱いも議論の対象となっています。
消費税率の引下げやゼロ税率措置は、即効性という意味では分かりやすい政策です。しかし、財源規模が大きく、制度変更の実務負担も無視できません。
中小企業にとっては、レジ対応、請求書様式、価格表示の変更など、制度変更に伴う実務コストが発生します。特にインボイス制度が定着しつつある中での制度変更は、現場の混乱を招く可能性があります。
税制は単なる政策手段ではなく、日々の取引実務と密接に結びついているという点を見落とすべきではありません。
税制だけで物価高に対応できるのか
物価高の背景には、エネルギー価格、為替動向、国際情勢など複数の要因があります。税制はその一部にしか直接的に関与できません。
税制による支援はあくまで補完的手段です。価格転嫁の促進、生産性向上支援、社会保障制度との連動など、複数政策の組み合わせが不可欠です。
中小企業にとって重要なのは、短期的な税負担軽減だけでなく、中長期的な収益力向上です。税制はその環境整備の一部を担うにすぎません。
結論
令和8年度税制改正大綱における物価高対策は、家計支援と賃上げ促進を軸とした設計となっています。
しかし、中小企業の現場から見ると、制度活用には利益水準や実務体制といった前提条件があります。税制は方向性を示すものの、それだけで物価高の影響を十分に吸収できるわけではありません。
重要なのは、自社の収益構造と照らし合わせながら、どの制度を活用できるのかを見極めることです。税制は環境条件の一つであり、経営判断そのものを代替するものではありません。
次回は、「税負担の公平はどこまで進むのか」という観点から、高所得者課税や金融所得課税の見直しが中小企業オーナーに与える影響を検討します。
参考
・自由民主党・公明党「令和8年度税制改正大綱」(令和7年12月公表)
・税理士界 第1457号(令和8年2月15日発行)特集「令和8年度税制改正大綱を検証」
