「物価が上がり続けているのは一時的なのか、それとも長期的に続くのか?」
暮らしに直結するこの問いに、明確な答えを出すのは簡単ではありません。
2025年9月に公表された日本経済新聞社と日本経済研究センターによる「エコノミクスパネル」調査では、経済学者たちの見解も割れました。
- 2026年度も物価上昇率が日銀の2%目標を超える → 45%
- どちらとも言えない → 48%
- 超えない → 少数派
つまり、多くの専門家が「持続的なインフレの可能性」を警戒しつつも、確実な見通しは持てていないのです。
1. 今の物価はどうなっているのか?
まず現状を整理しましょう。
2025年8月の消費者物価指数(CPI総合)は 前年同月比2.7%上昇。
すでに 41カ月連続で2%目標を上回っています。
ただし、食料とエネルギーを除いた「コアコアCPI」で見ると、上昇率は1%台後半。つまり「生活必需品やエネルギー価格が物価上昇を押し上げている」面が大きいのです。
2. 経済学者の見解が割れる理由
調査で「どちらとも言えない」が最多となった背景には、複数の要因が絡みます。
(1)外部要因の影響
米国の高関税政策など、海外要因が日本の物価にどう影響するかは予測困難です。
明治学院大学の岡崎哲二教授は「米トランプ政権の経済政策の不確実性が大きい」として「どちらとも言えない」と答えています。
(2)コスト上昇と人手不足
インフレが続くとみる識者は、コスト高の転嫁と人手不足に注目しています。
- 「原材料やエネルギー、人件費の高止まりが続く」(保田彩子教授、カリフォルニア大)
- 「人材不足で賃金上昇が見込まれ、インフレ圧力は強い」(松井彰彦教授、東大)
(3)賃上げサイクルの定着
物価研究で知られる渡辺努氏(ナウキャスト創業者)は「来年の春闘でも高い賃上げが期待され、物価と賃金のサイクルが続く」と予想しています。
3. 金融政策をめぐる議論
物価が高止まりする中、日銀の対応が焦点となります。
現在、政策金利は0.5%に据え置かれていますが、年内の追加利上げ観測も出ています。
調査では:
- 利上げが適切(賛成) → 31%
- 反対 → 15%
- どちらとも言えない → 50%
まさに判断が分かれている状況です。
4. 利上げを支持する意見
利上げを求める学者は「日本経済がデフレから完全に脱却した」との認識を持っています。
- 星岳雄教授(東大・金融)
「デフレが終わり、供給制約が効く現状で今の金利水準は低すぎる」 - 清滝信宏教授(プリンストン大・マクロ経済学)
「都市部の不動産価格が所得を上回るペースで上昇し、若い世帯の住宅取得が難しくなっている。低金利政策の弊害は大きい」
つまり、資産価格のバブル化や若年世帯への悪影響を避けるには、利上げが必要という立場です。
5. 利上げに慎重な意見
一方で、賃上げや物価の基調が不十分として、利上げに慎重な意見も根強いです。
- 北尾早霧教授(政策研究大学院大・マクロ経済学)
「現在のインフレは外的要因が大きい。もし収束すれば実質金利は自然に上がる。持続的な賃金上昇が続かない限り、追加利上げは正当化しにくい」 - 藤原一平教授(慶応大・マクロ経済学)
「物価上昇は利上げを正当化するが、金利上昇に伴う国債の利払い負担は財政を圧迫する。中央銀行の本来の目的ではないが、財政の持続可能性を考慮せざるを得ない」
つまり、利上げには景気や財政への副作用も大きく、「慎重派」はそのリスクを懸念しています。
6. 私たちの生活にどう影響するのか?
物価高と金融政策の議論は、家計や企業に直接影響します。
- 住宅ローン金利
利上げが進めば変動金利型ローンの返済額が上がる可能性。特に若い世帯への影響が大きい。 - 企業の資金調達コスト
中小企業の借入金利が上昇すれば、投資や雇用にブレーキがかかる。 - 賃上げとのバランス
賃上げが続けば物価高を吸収できるが、そうでなければ家計の実質購買力は低下。
結局のところ、「賃金と物価の好循環」が実現できるかどうかが分岐点になるのです。
おわりに
エコノミクスパネル調査から浮かび上がったのは、
- 物価高は「続く可能性がある」が「不確実性も高い」
- 金融政策は「利上げを急ぐべき派」と「慎重派」に分かれている
という二重の構図です。
私たちにできるのは、家計管理や資産運用の面で「金利上昇もありうる」と想定して準備しておくこと。
例えば、住宅ローンの固定化や、インフレ局面に強い資産への分散投資が考えられます。
次回以降は、この物価・金利動向を受けて「暮らしや資産運用にどう備えるか」という観点から、さらに掘り下げていきたいと思います。
(参考:日本経済新聞 2025年9月30日付「エコノミクスパネル」記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
