源泉徴収義務者の事務負担が増す中で、不納付加算税免除範囲はなぜ広がらないのか

税理士
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所得税の源泉徴収制度は、我が国の税制の中でも特に重要な役割を担っています。給与や報酬の支払時点で税を徴収する仕組みは、徴税の確実性や行政コストの低さといった点で高く評価されてきました。一方で、その制度を現場で支えている源泉徴収義務者、すなわち企業や個人事業者の事務負担は、年々重くなっているのが実情です。
にもかかわらず、源泉所得税の納付漏れに対する「不納付加算税」の免除範囲は、長年ほとんど見直されていません。本稿では、源泉徴収制度の構造と事務負担の実態を整理した上で、この点にどのような課題があるのかを考えてみます。


源泉徴収制度が評価されてきた理由

源泉徴収制度には、一般に次のような長所があるとされています。
第一に、支払金額を基準として税額を算定するため、所得把握が比較的正確である点です。
第二に、支払時点で税を徴収するため、徴税が確実である点が挙げられます。
第三に、国側にとって徴税コストが低廉で、制度運営が効率的であることも大きな利点です。
第四に、納税者本人が一度に多額の税金を支払う必要がなく、心理的な負担が軽減される点も評価されています。

しかし、これらの利点はいずれも「制度としての合理性」に焦点を当てたものであり、実際に事務を担う源泉徴収義務者の負担については、十分に考慮されてきたとは言い難い面があります。


税制改正により拡大する事務負担

令和7年度税制改正では、給与所得者が源泉徴収義務者に提出すべき申告書類が、さらに多岐・多様化しました。
具体的には、各種控除に関する申告書の配布・回収、記載内容の確認、改正税法との照合といった作業が増加しています。これらは単なる形式的な確認にとどまらず、実質的な判断を伴う業務であり、担当者に相応の知識と注意力を求めるものです。

また、令和7年分においては、従来は月次の源泉徴収で調整されていた事項を、年末調整でまとめて処理するケースも見られます。特定親族扶養控除のように、年末調整事務が重層化している例もあり、源泉徴収事務全体が複雑化していると言えます。


源泉徴収事務を担う主体の広がり

企業における源泉徴収事務は、必ずしも一つの部署や担当者だけで完結するものではありません。
給与・人事部門が中心となるケースが一般的ですが、顧問税理士に依頼している場合や、従業員数が多く外部業者に委託している場合もあります。

さらに近年では、源泉徴収に関与する社内組織自体が拡大しています。
国際関係部署では、出向者や非居住者に関する源泉徴収を扱います。不動産部署では、非居住者から不動産を賃借する際の源泉徴収が問題となります。法務部署では、使用料や特許料といった支払に伴う源泉徴収が関係してきます。
このように、源泉徴収はもはや「給与事務だけの問題」ではなく、企業全体に関わる横断的な業務となっています。


不納付加算税免除の考え方とその限界

源泉所得税および復興特別所得税を法定納付期限までに納付しなかった場合、原則として不納付加算税が課されます。ただし、正当な理由があると認められる場合には、これが課されないこととされています。
この点については、「源泉所得税の不納付加算税の取扱い(事務運営指針)」において、いくつかの具体例が示されています。

源泉徴収義務者に関係する代表的な例として、給与所得者が提出した扶養控除等申告書や配偶者控除等申告書などに基づいて控除を行った結果、控除額が過大であった場合であっても、そのことについて源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由がないと認められるときには、不納付加算税を課さないとされています。

しかし、この免除範囲は、あくまで各種申告書に基因する事項に限定されています。企業内の担当部署が拡大し、制度が複雑化している現状を十分に反映しているとは言えない面があります。


見直しが検討されてもよいのではないか

例えば、住宅借入金等特別控除の借り替えに伴う適用誤りや、非居住者に対する賃借料支払いに関する源泉徴収漏れなどは、制度理解の難しさや情報の分断によって生じるケースが少なくありません。
これらは、源泉徴収義務者が故意や重大な過失によって生じさせたものとは評価しにくい場合も多いと考えられます。

それにもかかわらず、不納付加算税の免除範囲が従前のままであることには、制度と実務の乖離を感じざるを得ません。源泉徴収制度が円滑に機能してきた背景には、現場の不断の努力があることも事実です。その努力に対する制度的な配慮が、今後より求められるのではないでしょうか。


結論

源泉徴収制度は、税制全体の中で重要な役割を果たしており、その価値自体が否定されるものではありません。しかし、制度の適用範囲が広がり、事務負担が増加している現状を踏まえると、不納付加算税の免除範囲についても再検討の余地があるように思われます。
源泉徴収義務者を単なる「徴税の担い手」としてではなく、制度を支える協力者として位置付ける視点が、今後の制度運営には必要ではないでしょうか。


参考

・税のしるべ 2026年1月19日号
 源泉徴収義務者の事務負担増と不納付加算税の取扱いに関する解説記事


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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