高市早苗政権の税制改正論議が本格化しつつあります。特徴的なのは、従来の「増税・負担増の議論」ではなく、ガソリン税や軽油引取税の減税を皮切りとする「減税先行」の姿勢です。
一方で、財源の裏付けや政策減税の見直しなど、避けて通れない論点も明確になりつつあります。
本稿では、最新の議論動向をもとに、家計・企業・財政の三つの視点から、高市政権の税制改正の方向性と争点を整理します。
1. ガソリン・軽油の減税は「政策の柱」
高市政権の目玉政策が ガソリン・軽油の減税 です。
旧暫定税率の上乗せ分を
- ガソリン税:2025年12月31日廃止
- 軽油引取税:2026年4月1日廃止
とする与野党6党合意が成立しました。
税収減は国・地方合わせて 約1.5兆円規模 に達するとされ、家計負担軽減効果は大きい一方で、財源確保が大きな課題となります。
臨時国会では関連法案の成立を目指し、年末の税制改正協議では「減税の穴埋め」をめぐる調整が本格化します。
2. 企業向け「政策減税」見直しが財源候補に
与野党の合意文書には、政策減税である 租税特別措置(租特) の徹底した見直しが明記されています。
特に焦点となるのが以下の2つです。
- 研究開発税制(2023年度減税額9,479億円)
- 賃上げ促進税制(2023年度減税額7,278億円)
研究開発税制は適用規模の大きさから「財源候補の筆頭」とされますが、経済産業省は拡充を求め、財務省は縮小を主張しており、調整は難航が必至です。
3. 富裕層課税の見直し ―「1億円の壁」対策
富裕層の税負担が相対的に低くなる現象として知られる「1億円の壁」の是正も検討対象です。
有力なのは
- ミニマム課税(最低税率)の対象範囲拡大
で、高所得者の負担率が大きく沈まないよう、税体系の歪みを修正する狙いがあります。
4. 成長投資を促す「新・投資促進税制」
企業の国内投資を促すため、高市政権は 大胆な投資促進税制 を創設する方針を示しています。
具体案は以下の通りです。
- 即時償却(投資初年度に全額を損金算入)
- 大規模投資に対する法人税負担の軽減
企業の手元資金を厚くし、設備投資・賃上げを後押しする狙いです。
同時に、以下の税優遇の見直し・延長も議題に上がります。
- スタートアップ投資減税
- 東京23区から地方移転した企業への減税
- 地方活性化を目的とした法人向け特例措置 など
5. 家計向け支援税制の論点
2026年度改正では、家計向け税制も大きな議論になります。
(1)年収の壁(基礎控除)の引き上げ
物価上昇に伴い、基礎控除などの「非課税枠」を物価に連動させる案が浮上しています。
現状の据え置きでは、物価上昇局面で実質的な負担増が生じるため、タイミングと指標をどう設計するかが焦点です。
(2)住宅ローン減税の適用拡大
国土交通省は適用面積の下限を
- 50㎡ → 40㎡へ緩和
を要望しています。
狭小住宅や都市部マンションの負担を軽くし、住宅取得の機会を広げる狙いです。
(3)NISAの拡充
- 18歳未満でも「つみたて投資枠」を利用可能とする案
が検討されており、金融教育・資産形成推進の観点から注目されています。
(4)自動車関連税
自動車メーカーは「環境性能割」の廃止を要望。
購入時の負担軽減による買い替え需要の喚起が期待されます。
6. 少数与党でどう法案を通すか
高市政権は「少数与党」。
法案成立には野党の協力が不可欠で、
- 国民民主党
- 日本維新の会
- 公明党(連立離脱後のスタンス)
との関係が重要になります。
税制改正は「多数決」だけでは動かず、政党間の政策調整が鍵を握ります。
結論
高市政権の税制改正は、
・ガソリン・軽油の減税
・家計負担の軽減
・企業の設備投資促進
を柱にした「減税先行型」の政策パッケージとして進みつつあります。
一方で、財政規律・国債市場の反応・政策減税の見直し・富裕層課税の再構築など、多くの課題を抱えています。
減税は家計や企業に恩恵をもたらす一方、財源確保と税体系のバランス調整は避けて通れません。
今後の税制改正議論は、成長と財政健全性をどう両立させるかという、日本の長年の課題に正面から向き合うものとなりそうです。
出典
日本経済新聞「減税先行の高市財政 成長投資促進狙う」
(2025年11月18日付紙面記事)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

