インド株式市場は、ここ数カ月の低迷から立ち直りつつあります。背景にあるのは、政府の大型減税策、海外投資家の動向改善、そして中央銀行による利下げ期待です。まさに「政策総動員」が市場を下支えし、SENSEXは再び史上最高値に接近しています。本稿では、これまでの動きを総括し、今後のインド株のシナリオを考えていきます。
政府の大型減税 ― 消費を直接刺激
まず注目すべきはモディ政権が打ち出した 物品・サービス税(GST)の大幅引き下げ です。
- 自動車・二輪車:28% → 18%
- 乳製品やパスタなど生活必需品:12% → 5%
とくに自動車関連の減税幅は大きく、販売拡大への期待から株価が即座に反応しました。アイシャー・モーターズやマルチ・スズキなど自動車株が軒並み上昇し、市場全体のセンチメントを改善しています。
さらに、DBSグループが成長率予想を6.3%から6.7%に引き上げるなど、マクロ経済の押し上げ効果も確認されています。
海外投資家マネー ― 流出から回帰へ
ここ1年で270億ドルの売り越しを続けてきた海外投資家ですが、9月に入り買い越しに転じました。インド証券保管会社(NSDL)によると、9月第3週には1億8900万ドルの買い越しを記録。
「市場の信頼回復」という言葉が投資銀行のレポートに並び始め、減税による即効性が投資家心理を変えつつあることを示しています。国内投資家が下支えしてきた市場に海外資金が戻り始めれば、株価の上昇余地は一段と広がるでしょう。
金融緩和期待 ― 追い風は二重になるか
7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+1.61%と低水準。これを受けて市場では 年内に0.25%利下げ再開 の観測が広がっています。一部では「0.5%の大幅利下げ」の可能性まで言及されています。
利下げは企業の資金調達コストを下げるだけでなく、自動車ローンや住宅ローンの需要を刺激し、消費を一層押し上げます。減税との相乗効果で株価にとって二重の追い風となる可能性が高いでしょう。
政策総動員のシナリオ
こうした動きをまとめると、インド株の復調シナリオは「政策総動員」によるものと言えます。
- 減税 → 消費刺激、成長率押し上げ
- 海外投資家の回帰 → マネーフロー改善、株価の下支え
- 金融緩和(利下げ) → 消費・投資需要のさらなる押し上げ
これらが同時進行すれば、海外マネーの流入が加速し、株価は再び史上最高値を更新する可能性が高まります。
強気の見通しと残るリスク
米モルガン・スタンレーは「2026年6月にSENSEXが8万9000に到達する可能性は50%、10万に到達する確率は30%」との強気予想を出しています。減税・海外資金回帰・利下げの「三位一体」が現実化すれば、このシナリオは決して非現実的ではありません。
ただし、リスク要因も忘れてはいけません。
- 米国との関税交渉が不調に終わるリスク
- 原油価格の上昇によるインフレ再燃
- 米金利動向による新興国からの資金流出
これら外部要因が悪化すれば、せっかくの政策効果が相殺される可能性があります。
おわりに
インド株式市場は今、減税・海外マネー回帰・利下げ期待という「三重の支え」を得て復調の兆しを見せています。政策総動員によって市場の信頼は回復しつつあり、SENSEXが再び史上最高値を更新する日も視野に入ってきました。
ただし、インド経済はグローバル環境に大きく影響を受けるため、対米関係や資源価格など外部要因を注視し続ける必要があります。政策効果と国際環境のバランスが、インド株の未来を決定づけるでしょう。
👉 本稿は、日本経済新聞(2025年9月23日朝刊)記事「インド株復調の兆し 減税好感、2カ月ぶり高値」を参考に執筆しました。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

