近年、先進国を中心に「減税」を軸としたポピュリズム的政策が広がりつつあります。家賃の凍結、保育の無償化、市営スーパーマーケットの創設など、耳触りの良い政策が若い世代を中心に強い支持を集めています。日本でも2025年の参院選を機に、減税や社会保険料の引き下げが政治の中心テーマとして浮上しました。
生活の苦しさを背景に、現役世代や若年層が短期的な利益を求める傾向は理解できます。しかし、社会保障の持続可能性という長い時間軸で見ると、減税ポピュリズムは将来世代に大きな負担を残す可能性があります。
この記事では、海外の動向、日本の政治状況、若い世代の意識変化、そして制度としての対抗策を整理しながら、「減税ポピュリズムの未来」を考えていきます。
1. 米国に見る「短期的利益」の台頭
2025年11月、ニューヨーク市長選で注目されたのは、34歳のゾーラン・マムダニ氏の勝利でした。家賃凍結や保育無償化など“即効性のある負担軽減策”を掲げ、18〜29歳の75%が支持したといわれています。若者の生活不安の深さ、そして短期的なメリットが政治参加への強い動機となっていることが示唆されます。
アメリカで広がる動きは、いずれ日本でも同じように表面化する可能性があります。すでに日本でも若い世代の政治参加が増えており、2025年参院選における25〜29歳の投票率は約52%と急増しています。
2. 日本の政治も「減税」を競い始めた
日本の政治でも減税を中心とした訴えが勢いを増しています。国民民主党は「現役世代の手取りを増やす」を掲げ、若者だけでなく広い層にアピールしました。日本維新の会は社会保険料の引き下げを訴え、消費税減税の議論もかつてないほど前面に出ています。
従来、消費税減税は政治的に慎重に扱われるテーマでした。しかし、若年層の中では「消費税減税」に対する抵抗感が薄れ、肯定的に受け止められる傾向が強まっています。これまでの政治運営を知る高齢世代とは認識が大きく異なっている点が特徴です。
3. 若者の意識変化と「世代間対立」の顕在化
スマートニュースメディア研究所が実施した調査では、18〜39歳で「自分は現役世代と高齢者の世代対立の当事者だ」と答える割合が最も高くなりました。2年前の調査と比べても、世代間対立の存在感が明確に高まっています。
生活の苦しさ、低成長、賃金の伸び悩み。こうした状況が、若者の政治的選好をより「短期的な利益を求める方向」に押し出しています。しかし、消費税は社会保障の主要財源です。若者自身も将来は子育てや病気で“支えられる側”になることを考えると、世代間の軋轢が制度の土台を揺るがすリスクがあります。
4. 「短期的利益」と「財政悪化」のジレンマ
減税は短期的には歓迎されますが、その裏側では財政悪化が進行します。2025年度補正予算案では約11.6兆円もの国債が追加発行され、長期金利の上昇と利払い費増加という形で将来の負担が拡大しています。
少数与党の状況では、与野党ともに“有権者にわかりやすいメリット”を競い合う構図に陥りやすい傾向があります。減税競争が政治の中心になるほど、財源や制度改革の議論が後回しにされる懸念はさらに強まります。
5. 対抗策としての「未来委員会」モデル
こうした短期志向の政治を補う仕組みとして、長期的視点を政策に組み込む制度が注目されています。日本でも国会に独立機関を置き、中長期の財政見通しを議論する案が浮上しています。
海外で先行しているのがフィンランドの「未来委員会」です。科学技術、福祉、人口など長期テーマを議論し、首相はその提言を政策に反映することが制度化されています。委員会の議員は他の委員会でも長期視点をもって発言するようになり、結果として議会全体の“未来リテラシー”が高まったと評価されています。
日本でも同様の仕組みを整えることで、減税競争に傾きすぎる政治に歯止めをかけられる可能性があります。
結論
若い世代の生活の苦しさは現実であり、短期的な負担軽減策を求める声が強まるのは自然な流れです。しかし、消費税を中心とする減税が社会保障の財源を直撃することを考えると、単純な「減税か否か」の二元論では解決できません。
日本の少子高齢化は、これまでの政治が十分な制度改革を行わなかった結果として重くのしかかっています。短期的な利益を最優先する政治が続けば、将来世代が「なぜあの時、必要な改革をしなかったのか」と振り返る日も訪れるでしょう。
いま求められているのは、短期的な安心と長期的な持続可能性の両方を見据えた政治運営です。未来を生きる世代が誇れる社会を築くためにも、長期視点を制度として政治に組み込む仕組みづくりが不可欠だといえます。
出典
・日本経済新聞「減税ポピュリズムの未来」(2025年11月30日 朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
