――飲食料品2年間ゼロ税率構想をどう読むか
物価高が続くなか、与党が公約に掲げた「飲食料品の消費税率を2年間限定でゼロ」とする構想が、いよいよ具体的な政治日程に乗りました。
高市首相は、超党派の国民会議を設置し、夏前には中間取りまとめを行う考えを示しています。
本稿では、この政策の位置づけ、財源論、制度設計上の課題を整理し、今後の論点を考察します。
1.なぜ「2年間限定」なのか
今回の提案は、恒久的な減税ではありません。
首相は明確に、これは「給付付き税額控除制度の導入までのつなぎ」と説明しています。
給付付き税額控除は、低所得者層に対して実質的な所得補填を行う再分配政策です。理論上は逆進性対策として合理性が高い一方で、制度設計や事務体制整備に時間がかかります。
そこで、暫定措置として「飲食料品ゼロ税率」を実施するという構図です。
ここで重要なのは、
・ゼロ税率は恒久制度ではない
・給付付き税額控除が「本丸」とされている
という政治的メッセージです。
2.財源はどう確保するのか
首相は「特例公債に頼らない」と明言しています。
その代替財源として示されたのが、
・補助金の見直し
・租税特別措置の整理
・税外収入の活用
です。
2年間限定とはいえ、飲食料品をゼロ税率とすれば年間数兆円規模の減収が想定されます。単純な歳出削減だけで賄えるのか、具体的な数字の提示が今後の焦点となります。
また、租税特別措置の見直しは、業界・企業との利害調整を伴います。政治的ハードルは決して低くありません。
財源論を曖昧にしたまま制度を走らせれば、結局は将来世代負担の議論に跳ね返ってきます。
3.ゼロ税率の制度設計上の課題
飲食料品をゼロ税率とする場合、現行の軽減税率制度(8%)を全面的に改編することになります。
論点は少なくとも次のとおりです。
(1)対象範囲の線引き
外食は含むのか
酒類はどうするのか
加工食品との境界はどうなるのか
軽減税率導入時にも線引きは混乱しました。ゼロ税率となれば、より大きな影響が生じます。
(2)インボイス制度との関係
ゼロ税率は「非課税」ではなく「課税売上(税率0%)」です。
仕入税額控除の扱い、システム改修負担、事業者の事務コストが再び問題になります。
(3)価格転嫁の実効性
税率がゼロになっても、その分が必ず価格に反映されるとは限りません。
小売段階で吸収される可能性もあります。
政策効果の実効性検証が不可欠です。
4.再分配として妥当か
消費税減税は「広く薄く」効きます。
しかし、所得水準に関係なく恩恵が及ぶため、再分配効果は限定的です。
その点で、給付付き税額控除の方が理論的にはターゲットが明確です。
今回の構想は、
・即効性を優先するゼロ税率
・精緻な再分配を目指す税額控除
という二段構えといえます。
ただし、2年間で本当に税額控除制度へ移行できるのか。制度移行が遅れれば、「つなぎ」が事実上の延長措置になる可能性もあります。
5.政治日程の意味
与党は衆院で3分の2超を確保しています。
仮に参院で否決されても再可決が可能な状況です。
制度導入そのものは政治的に実現可能な環境にあります。
問題は、
・超党派協議がどこまで実質的議論になるか
・夏前の中間取りまとめで具体性が示されるか
です。
財源と制度設計が具体化しなければ、市場や家計は判断できません。
結論
飲食料品ゼロ税率は、単なる物価対策ではなく、再分配制度改革への「橋渡し」として位置付けられています。
しかし、
・財源の実効性
・制度設計の複雑性
・再分配効果の妥当性
・給付付き税額控除への移行の確実性
という4つの論点をクリアしなければ、政策としての持続性は担保できません。
今後の国民会議の議論では、「減税するか否か」ではなく、
どのような社会保障・税制モデルを目指すのか
という本質的議論が求められます。
短期的な家計支援と、中長期的な財政規律の両立。
その設計図が示されるかどうかが、夏前の最大の焦点となります。
参考
・税のしるべ 令和8年2月16日号 1面
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