消費税は、法人税や所得税と並ぶ基幹税目ですが、実務の現場では「最も神経を使う税目」と言われることが少なくありません。
最近の報道では、税理士の職業賠償責任保険の支払件数のうち、消費税が税目別で最多となっていることが明らかになりました。仮に食品の消費税率が2年間ゼロとなる制度改正が実現すれば、さらに実務リスクが高まる可能性も指摘されています。
本稿では、なぜ消費税が「税理士泣かせ」と言われるのか、その構造と今後の実務上の留意点について整理します。
消費税の賠償件数が最多という事実
日本税理士会連合会が運営に関与する税理士職業賠償責任保険の支払状況によれば、2024年度の支払件数は683件で過去最多となりました。
そのうち消費税に関するものは297件と、全体の4割超を占め、税目別で最多となっています。
法人税が190件、所得税が106件であることと比較しても、消費税の突出ぶりがうかがえます。
これは単なる偶然ではなく、消費税という税目の構造そのものに原因があります。
なぜ消費税はミスが起きやすいのか
1.課税方式の選択が納税額を左右する
消費税は原則課税方式のほか、中小企業向けの簡易課税制度があり、どちらを選択するかによって納税額が変わります。
さらに、仕入税額控除の適用方法や特例の有無によっても税負担が大きく変動します。
つまり「計算ミス」よりも、「選択ミス」の影響が大きい税目なのです。
しかも、簡易課税制度の選択届出書などは期限内提出が絶対条件であり、提出漏れや記載誤りがあれば適用されません。修正申告で救済できないケースもあります。
この「一度の判断が数年に影響する」構造が、賠償案件につながりやすい理由です。
2.制度改正の頻度と複雑化
消費税はここ数年で大きく制度が変わりました。
2023年には
インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入され、適用税率の正確な把握や請求書要件への対応が必須となりました。
さらに中小企業向けの経過措置や特例も多数設けられています。
そして2026年度税制改正では、それらの特例の一部変更・延長が予定されています。
制度が複雑になるほど、確認事項は増えます。
結果としてヒューマンエラーの余地も拡大します。
3.税率変更が与える実務負担
仮に「食品の消費税率を2年間ゼロ」とする措置が実施された場合、実務はさらに複雑になります。
・税率区分の変更
・課税方式の見直し
・価格設定の変更
・経理システムの修正
・2年後の再変更対応
短期間で制度が変わり、さらに元に戻る可能性がある場合、届出漏れや設定ミスが発生しやすくなります。
税率が増えるよりも、「一時的にゼロになる」ほうが実務的には難易度が高いという側面もあります。
消費税リスクをどう管理するか
消費税の実務は、もはや「計算の正確さ」だけでは不十分です。
重要なのは次の3点です。
1.制度改正の定期的なフォロー
2.課税方式の選択理由の記録化
3.期限管理の徹底
とくに課税方式の選択は、顧問先の事業構造や将来見通しを踏まえた判断が必要です。単年度の有利不利だけで決めると、長期的には逆効果になる場合もあります。
消費税は「技術税目」から「戦略税目」へ
消費税は単なる計算税目ではありません。
・事業構造
・価格政策
・取引先との関係
・資金繰り
これらすべてに影響を与える税目です。
その意味で、消費税は「技術税目」から「戦略税目」へと性格を変えています。
税理士にとってはリスクが高い税目ですが、同時に専門性を発揮できる分野でもあります。
結論
消費税に関する賠償件数が最多であるという事実は、制度の複雑さと実務負担の重さを示しています。
今後、税率変更や特例の見直しが続けば、実務リスクはさらに高まる可能性があります。
消費税対応は、単なる申告業務ではなく、制度理解・選択判断・期限管理を含めた総合的な業務管理が不可欠です。
制度が変わるほど、専門家の役割はむしろ重くなります。
消費税実務は、今後も税理士にとって最大の試練であり続けるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年2月18日 朝刊
「消費税は税理士泣かせ ミスで賠償、税目別最多の年300件」

