海外のECサイトで安価な商品を購入する機会が増えています。
「Temu」や「SHEIN」などでは数百円の商品でも送料無料で自宅に届くことがありますが、その裏には「デミニミス・ルール」と呼ばれる少額輸入品の免税制度が存在します。
財務省はこのルールの見直しを検討しており、2026年度税制改正の焦点の一つになる見込みです。
今回は、制度の概要と課題、そして税理士・FPが押さえておくべき実務上の影響を整理します。
デミニミス・ルールとは ― 少額輸入の“免税ライン”
「デミニミス(de minimis)」とは、法律用語で「ごく小さなもの」という意味です。
日本では、課税価格が1万円以下の輸入品については、消費税や関税の徴収を免除しています。
これは、本来徴収すべき税額がわずかで、徴収コストが高くつくという行政上の合理性に基づく制度です。
例えば、課税価格が8,000円の輸入品であれば、通常なら消費税800円が発生しますが、このルールにより税金はかかりません。
この仕組みは、個人輸入だけでなく、海外ECを通じた少額配送にも広く適用されています。
問題点 ― 免税制度が招く「不公平な価格競争」
近年の課題は、この制度を活用した不当な価格競争です。
中国などからの安価な商品が大量に流入し、国内の小売・製造業が価格面で不利になる状況が続いています。
実際、2024年度の輸入申告件数は約2億件に達し、5年間で4倍に増加しました。
海外ECサイトでは「課税価格1万円未満」を意識した販売設計を行う例もあり、税制の抜け道として機能している実態があります。
また、国内で販売する目的の輸入品を「個人使用」と偽るケースも見られ、税務当局による摘発事例も報告されています。
制度の本来の趣旨――少額・個人用途の免税――が形骸化している点が問題です。
各国の対応 ― 世界的に進む免税撤廃の流れ
少額輸入品の免税制度を維持している主要国は、今や日本だけです。
- EU・英国:2021年に少額輸入品の付加価値税(VAT)免税を廃止
 - 米国:2025年8月に関税の免税を撤廃
 - オーストラリア・ニュージーランド:すでに越境ECに課税を適用済み
 
各国は、EC事業者やプラットフォームを課税主体に組み込み、「販売時課税」へ移行しています。
これにより、税徴収の公平性と徴税効率を両立させる仕組みを整えつつあります。
財務省の検討方向 ― 「プラットフォーム課税」と「登録制」
日本でも、財務省が次の二段構えの見直しを検討しています。
- 課税価格1万円以下でも課税対象化
→ 実質的にデミニミス・ルールを廃止し、少額商品にも輸入消費税を適用。 - ECプラットフォームへの納税義務付け
→ TemuやSHEINなど、一定規模以上の事業者に「代理納付」を義務づけ、
消費者が商品を受け取る前に税金を回収する方式を導入。 
これにより、税務当局は膨大な個別輸入データを処理する必要がなくなり、システム課税型の徴収へ移行する狙いがあります。
税理士・FP実務への影響 ― 越境取引の整理が急務
デミニミス・ルール見直しは、特に次のような実務に影響を与えます。
① EC事業者(国内販売者)
- 海外倉庫発送や直送モデルを採用している場合、輸入段階で課税されるリスクが高まる。
 - 適格請求書発行事業者との整合を確認し、仕入税額控除可能な形式かを要チェック。
 - 海外販売代行やドロップシッピングを行う場合は、販売責任と納税責任の所在を明確化しておく必要がある。
 
② 個人輸入業者・副業者
- 輸入コストに消費税が上乗せされるため、価格転嫁や利益率再計算が必要。
 - 通関業者を介したインボイス整備が不可欠となり、記帳・経理処理の煩雑化が予想される。
 - 税理士が関与する場合、輸入申告書・納税証明書を基に、課税区分を「課税仕入」へ正しく反映させる指導が求められる。
 
③ FP・消費者対応
- 改正後は「安価な海外通販の価格上昇」が避けられず、家計支出の増加要因となる。
 - FPとしては、消費者相談やライフプラン設計で、物価上昇・消費支出増の構造的要因として説明できるよう備える必要がある。
 
結論
デミニミス・ルールの見直しは、単なる「小さな免税廃止」ではありません。
越境ECを通じた課税のあり方そのものを再設計する重要な転換点です。
今後は、
- ECプラットフォームを課税主体とする国際的潮流への対応、
 - 消費税・関税の二重課税防止、
 - 個人輸入・転売の線引き明確化、
が実務課題となります。 
税理士・FPとしては、越境取引の課税実務を体系的に整理し、顧客や消費者への助言体制を早期に整えることが不可欠です。
出典
出典:2025年11月3日 日本経済新聞朝刊「個人輸入の税優遇廃止」ほか財務省報道資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  