海外資産を持つ中小企業オーナーの税務管理―徴収共助時代の実務対応

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

海外に預金口座を持っている。
海外法人に出資している。
シンガポールや香港に資産管理会社を設けている。

中小企業オーナーの国際化は珍しいものではありません。しかし、国際的な情報交換と徴収共助制度の進展により、海外資産は「把握されない前提」ではなくなっています。

本稿では、海外資産を持つ中小企業オーナーが押さえておくべき実務対応を整理します。


前提として理解すべき3つの環境変化

1 CRSにより海外口座情報は自動的に共有される

日本居住者の海外金融口座情報は、CRSに基づき日本へ自動的に提供されます。件数・残高ともに増加傾向にあり、制度は定着しています。

海外口座は「申告しなければ分からない」という時代ではありません。

2 要請に基づく情報交換が機能している

国内調査だけでは不明な場合、国税当局は外国当局へ情報を要請します。アジア地域との連携は特に活発です。

3 徴収共助制度により回収段階まで連携する

税額が確定し滞納となれば、海外資産に対して徴収共助が要請される可能性があります。課税段階と徴収段階は切り離して考えられません。


中小企業オーナーに多い海外資産の形態

実務上よく見られるのは、次のようなケースです。

  • 海外銀行口座(個人名義)
  • 海外証券口座
  • 海外法人への出資持分
  • 海外法人名義の預金
  • 海外不動産
  • オフショア保険商品

問題は資産の存在そのものではなく、税務上の取扱いが適正かどうかです。


典型的なリスクポイント

1 配当・利息の申告漏れ

海外口座の利息や海外法人からの配当が日本で申告されていないケースは少なくありません。

CRSで口座残高が把握されれば、資産規模に応じた収益の有無が検討対象になります。

2 実質帰属の問題

海外法人名義の資産であっても、実質的にオーナー個人が支配・享受している場合、個人帰属が問題となることがあります。

名義と実態が一致しているかは重要な論点です。

3 役員貸付金・関連当事者取引

海外法人との資金移動が不明確な場合、移転価格や寄附金認定、役員賞与認定などの論点に発展することがあります。


徴収共助を意識した対応

徴収共助は「最後の段階」の問題ですが、実務上は初期段階から意識する必要があります。

1 課税段階での適切な対応

更正や指摘があった場合、安易に放置せず、

  • 争うべき論点か
  • 事実関係の整理は十分か
  • 証拠は整っているか

を慎重に検討します。

税額が確定すれば、徴収段階へ進みます。

2 資産移転による回避は逆効果

徴収を免れる目的で資産を急激に移転すると、悪質性が高いと評価される可能性があります。

結果としてリスクが拡大します。

3 海外資産も資産管理台帳に含める

国内資産と同様に、海外資産も一覧化し、

  • 所在国
  • 名義
  • 残高
  • 税務上の位置付け

を整理しておくことが重要です。


実務対応チェックリスト

海外資産を持つオーナーは、次の点を確認します。

1 海外口座の利息・配当は申告しているか
2 海外法人との資金移動は帳簿で説明できるか
3 名義と実質支配が一致しているか
4 国外財産調書の提出義務を確認しているか
5 税務調査時に説明できる資料を保管しているか

これらは防御の基本です。


経営者としての視点

中小企業オーナーにとって、税務問題は個人の問題にとどまりません。

  • 金融機関との関係
  • M&A時のデューデリジェンス
  • 事業承継

にも影響します。

海外資産の透明性は、企業価値の一部です。


結論

海外資産はリスクではありません。
リスクとなるのは、管理と申告の不備です。

国際的な情報交換と徴収共助制度が機能する現在、

  • 把握される前提で管理する
  • 説明可能な状態を維持する
  • 争う場合は早期に方針を決める

ことが重要です。

国際化は経営の選択肢を広げますが、それに見合う税務管理体制が必要です。徴収共助時代の実務は、透明性を前提に設計することが求められています。


参考

税のしるべ
「6事務年度の租税条約に基づく情報交換事績、過去最多のCRS情報を受領」
2026年2月9日付


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました