海外口座や海外不動産、海外法人持分を保有している場合、「家族信託を活用できないか」という相談を受けることがあります。
家族信託は資産管理や承継設計の有効な手段ですが、海外資産が絡むと一気に論点が複雑になります。
本稿では、海外資産と家族信託の関係を、実務的な視点で整理します。
家族信託の基本構造
家族信託は、
- 委託者(財産を託す人)
- 受託者(管理する人)
- 受益者(利益を受ける人)
という三者構造を基本とします。
目的は、
- 認知症対策
- 円滑な資産承継
- 管理権限の明確化
などです。
海外資産がある場合の特有論点
1 信託の有効性の問題
日本法に基づく家族信託が、海外の金融機関や登記制度でそのまま認められるとは限りません。
- 現地法との整合
- 受託者の権限承認
- 名義変更手続
を確認する必要があります。
2 名義変更の実務
海外口座や海外不動産を信託財産とする場合、実際に名義変更できるかが問題になります。
金融機関によっては、
- 信託名義口座の開設不可
- 受託者変更に制限
があることもあります。
3 税務上の帰属
家族信託は「節税制度」ではありません。
信託設定によって、
- 所得の帰属
- 相続税評価
- 贈与税の問題
が生じる可能性があります。
海外資産の場合、さらに各国の税制も関係します。
典型的な活用場面
1 海外資産の管理権限を明確にする
高齢のオーナーが海外口座を保有している場合、受託者に管理権限を与えることで、
- 凍結リスクの回避
- 手続の迅速化
が期待できます。
2 海外法人持分の承継整理
海外法人の持分を信託に組み込み、承継先を段階的に設計する方法があります。
ただし、現地会社法との整合確認が不可欠です。
3 遺言との併用
家族信託だけで完結せず、遺言と併用することで、信託対象外財産も整理できます。
海外資産は「信託+遺言」の組み合わせが現実的なケースもあります。
よくある誤解
1 信託に入れれば税務調査は来ない
信託にしたからといって、国外財産調書や所得申告の義務が消えるわけではありません。
実質帰属が問題になります。
2 海外資産はまとめて信託にすれば安全
現地法や金融機関実務に対応できない場合、かえって管理が複雑になります。
設計は慎重に行う必要があります。
中小企業オーナーの場合
オーナー経営者は、
- 自社株
- 海外子会社
- 個人海外資産
が混在します。
家族信託を導入する場合、
- 経営権への影響
- 株主構成
- 事業承継税制との関係
を総合的に検討します。
信託が経営安定につながるかどうかが判断軸です。
実務対応のポイント
1 海外資産の法域を確認する
2 現地手続の可否を確認する
3 税務上の帰属を整理する
4 遺言と併用する設計を検討する
5 納税資金との整合を図る
信託は手段であり、目的ではありません。
結論
海外資産と家族信託の組み合わせは、有効な場合もありますが、万能ではありません。
重要なのは、
- 現地法との整合
- 税務の透明性
- 承継全体設計との一体化
です。
国際相続は、国内制度だけで完結しません。
家族信託を活用する場合も、国際的な視点での確認が不可欠です。
海外資産を持つ経営者にとって、信託は「管理の道具」であり、「隠す道具」ではありません。
透明性と整合性を前提にした設計が求められます。
参考
税のしるべ
「6事務年度の租税条約に基づく情報交換事績、過去最多のCRS情報を受領」
2026年2月9日付
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
