2026年度税制改正に向け、政府・与党が都市と地方の税収格差をどのように調整するかが大きな論点になっています。特に、法人事業税の再分配制度を強化し、東京への過度な税収集中を是正する方向が検討されています。
東京への企業集積は長年続き、雇用・所得・投資の大きな流れを形成してきましたが、その裏では地方の財政基盤が弱まり、人口流出に拍車がかかるという課題もあります。本稿では、法人事業税の再分配制度の現状、今回検討される方向性、さらに地方財政や企業行動に与える影響まで整理します。
1 法人事業税の再分配制度とは何か
法人事業税は、企業が事業を行う各都道府県に対して支払う地方税です。
現在、この法人事業税の一部(地方法人特別税を経て、現在は地方法人税と再配分制度が組み合わされた形)を国が集め、人口・財政需要などに応じて全国に再配分する仕組みが存在します。
再分配の目的は明確です。
- 東京など大都市に企業の本社機能が集中
- しかし地方でも企業活動の恩恵(消費、インフラ維持、安全保障などの行政サービス)は必要
- よって財源を一定程度全国に回すことで地方の行政サービスを支える
制度自体はすでに存在するものの、都市部に税収が過度に集中している現状は解消できていないと指摘されています。
2 税収が東京に集中する構造的な理由
東京への税収偏在が強まっている背景には、以下の三つの構造変化があります。
(1) 持株会社・フランチャイズ化の進展
企業が持株会社化すると、人件費や管理部門が本社に集まることで課税ベースが本社所在地に偏ります。
FCチェーンでも同様に、本部の収益が東京で計上されるケースが増えています。
(2) インターネット販売・非店舗型ビジネスの拡大
EC事業者やITサービス企業では、全国に顧客を持ちながら地方に事務所を置く必要がなく、東京で法人税・事業税が計上される傾向が強まります。
(3) 地価上昇と固定資産税の集中
再開発や海外投資の流入により、東京23区の商業地価格は全国平均を大きく上回っています。
そのため、東京23区は商業地面積1%程度にもかかわらず、固定資産税収の約2割を占める状況です。
これらの変化に制度が追いついていない、という問題意識が今回の改正議論の背景にあります。
3 政府・与党が検討する方向性
記事に示された検討方向を中心に、現在議論されている主な論点を整理します。
(1) 法人事業税の再配分(偏在是正)強化
すでに存在する再分配制度を拡大し、「東京以外の地方自治体により多く配分する」方向です。
例:
- 従業員数・事業所面積などの配分指標の見直し
- 本社所在地への集中を緩和する新たな算定方式の導入
- 非店舗型ビジネスに対応した新ルール
(2) 固定資産税の偏在調整の検討
地価上昇に伴う税収集中が顕著なため、固定資産税についても何らかの再分配ルールを検討する案があります。
しかし、固定資産税は「土地・建物という特定資産に課す税」という性格から、
- 固有の財源を奪うのはいかがか
という慎重意見もあり、実現可否は不透明です。
(3) 2026年度大綱で方向性を明記し、2027年度大綱で結論へ
短期で決めず、1年程度かけて制度設計を進める長期議論となります。
4 都市と地方、それぞれの論点
■ 東京(都市側)の主張
- すでに地方交付税で国が再分配しており、追加の偏在是正は不要
- 東京の税収を削ると、住民サービスが低下し、都市の競争力を失う
- 経済成長のエンジンである東京の機能低下は国全体の損失につながる
特に東京では、人口・企業の集中を前提にしたインフラ維持費用も多いため、
「表面的には豊かでも財政需要は多い」という主張があります。
■ 地方側の主張
- 東京への一極集中が続き、地方の財政基盤が弱体化
- 医療・教育・インフラ維持など住民サービスのコストは依然として大きい
- 税収格差を放置すると人口流出が加速し、地域の持続性が失われる
地域間格差が行政サービスの質の差につながり、さらに人口流出を生む「負の循環」を断つには、財源調整が必要という立場です。
5 企業行動に与える影響
法人事業税の配分ルールが変わると、企業の立地戦略にも一定の影響があります。
(1) 地方進出のインセンティブ強化
地方に事業所や従業員を置くことが、自治体の財源面でも評価される方向に動けば、地方立地の魅力が増します。
(2) 本社機能の分散の実現可能性
税負担の見直しは、小規模な管理部門の地方移転を促す可能性があります。
実際、デジタル化やリモートワークの普及で、オフィス圧縮が進む企業は増えています。
(3) 非店舗型事業/持株会社の新ルールへの適応
新ルールの対象となる企業では、事業税負担や会計処理の見直しが必要になる可能性があります。
6 制度改革の本質的課題
今回の議論は単なる財源調整ではありません。
国全体として、どのように都市と地方の役割分担を再設計するかという問題に直結します。
課題として浮かび上がるのは以下の3点です。
- 人口減少下で、地方の行政サービスをどのように維持するか
- 都市の国際競争力を損なわないバランスをどこに置くか
- 税収偏在を是正しても“経済活動そのものの集中”は解消されにくいという構造問題
財源を分け合うだけで解決できる問題ではないため、今後は「地方への投資戦略」「移住・人流政策」「産業集積のあり方」と組み合わせた総合的な改革が求められます。
結論
法人事業税の再分配強化は、税収偏在の是正という財源面だけではなく、人口動態や企業の立地戦略に波及する重要な政策です。
東京一極集中の解消は長年の課題ですが、その解決には税制度だけでなく、都市と地方の役割分担を再構築する視点が不可欠です。
2026年度税制改正では、まず方向性の提示にとどまる見込みですが、2027年度に向けて制度設計が本格化します。
財源再分配は地方自治体にとって大きな追い風となる一方、都市側の財政への影響も避けられません。国としてどのバランスを選択するのか、引き続き注目されるテーマです。
参考
- 日本経済新聞「法人事業税の再分配強化 都市・地方の税収格差是正」(2025年12月5日 朝刊)
- 地方税法・地方法人課税改革に関する総務省資料
- 国土交通省「地価動向報告」
- 内閣府「地方創生関連資料」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
