標準報酬月額の上限引き上げが始まる 厚生年金保険料と将来の年金額はどう変わるのか

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会社員が支払う厚生年金保険料や、傷病手当金・出産手当金などの給付額を計算する基準となる「標準報酬月額」。2025年6月に成立した年金制度改正法により、この標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられることになりました。

対象となるのは高所得の会社員で、月収換算で約66万5,000円以上の方です。保険料負担が増える一方、将来受け取る年金額が増えるというメリットもあります。本稿では、改正のポイントと影響をわかりやすく整理します。

1. 標準報酬月額とは何か

厚生年金や健康保険の保険料は、実際の月収額をそのまま使うのではなく、「標準報酬月額」という区分に当てはめて計算します。
厚生年金の場合は 8万8,000円〜65万円までの32等級 に分かれており、以下のような方法で決まります。

  • 定時決定(年1回)
    4〜6月の報酬(基本給・残業代・通勤手当など)の平均で決定し、9月〜翌年8月まで適用。
  • 随時改定(随時)
    大きな給与変動があり、原則2等級以上変わった場合に4カ月後から見直し。

また、年3回以下の賞与などは標準報酬月額に含まれず、「標準賞与額」として別枠で保険料を計算します(1回の上限150万円)。

2. なぜ上限額の引き上げが必要だったのか

現行制度では、標準報酬月額の上限が 65万円 に設定されており、

  • 収入がそれ以上でも65万円として保険料を計算する
  • 高所得者ほど「実収入に対する保険料負担割合」が低くなる
  • 収入に応じた十分な年金を将来受け取れず、給付面でも不公平感がある

といった課題がありました。

これを是正するため、上限引き上げが導入されました。

3. 上限額は2027年から段階的に引き上げ

改正内容は次の通りです。

時期上限(標準報酬月額)
2027年9月〜68万円
2028年9月〜71万円
2029年9月〜75万円

最終的に、等級区分は32等級から35等級に増えます。

対象となるのは 月収66万5,000円以上(年収約1,000万円以上)の会社員 で、月収66万5,000円未満の人には影響はありません。

4. 保険料負担はどれくらい増えるのか

厚生労働省によると、標準報酬月額が75万円となる層では以下のような増加が生じます。

  • 保険料:
    現状 5万9,500円 → 改正後 6万8,600円
    月+9,100円(年間+約11万円)
  • 社会保険料控除を考慮した実質負担:
    月+約6,100円

なお、保険料率18.3%は変わらず、その半分を企業が負担します。

5. 将来の年金額はどう変わるのか

負担が増える一方で、将来受け取る年金額も増えます。

例:標準報酬月額75万円で10年間加入した場合

  • 年金額:月約5,100円アップ
  • 税負担を考慮した実質増:月約4,300円

年金は終身受給であるため、長生きするほど実質的なメリットが大きくなります。

6. 企業側の動きと注意点

負担増の影響が大きいのは企業です。
とくに高所得者を多く雇う企業では、人件費増が直接的に影響します。

そのため今後は、

  • 月給を抑え、代わりに賞与へ振り分ける
  • 月額報酬を調整して等級上昇を抑える

といった給与体系の見直しを行う企業が増える可能性があります。
実際に、コンサルティングの現場でも「賞与へのシフト」が始まっている企業が見られます。

会社の給与体系が変われば、家計の見通しや資金計画にも影響が出るため、今回の改正が直接の対象でない方も、今後の動向を注意深く見ておくことが重要です。

結論

今回の標準報酬月額の上限引き上げは、主に年収1,000万円超の会社員に影響する改正です。保険料負担は増えますが、その分将来の年金額も上がるため、単純に「損」とはいえない仕組みになっています。

一方で、企業側の負担は増えるため、給与体系の見直しが広がる可能性があります。制度改正の影響は直接の対象者に限らず、給与の組み立て方やライフプランにも波及することが考えられます。

今回の改正を機に、自分の給与明細・標準報酬月額の等級・年金見込み額を確認し、将来の家計をより堅実に考えるきっかけにしていただければと思います。

出典

  • 厚生労働省「改正事項について解説した補足資料(概要版)」
  • 日本FP協会 会員向けコラム(2025年)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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