米国株式市場は高値圏を維持している。
それなのに、世界の基軸通貨ドルの笑顔は消えている――。
🏛 米株が好調でもドルが弱いのはなぜ?
10月22日の米株式市場で、ダウ平均は前日比0.7%安の4万6,590ドル。
それでも依然として3週間ぶりの高値圏にある。
しかし、為替市場ではまったく異なる動きが起きている。
主要通貨に対するドルの強さを示す「ドルインデックス」は、
今年1月の110台から98台まで下落。
半年間で約11%下げ、約50年ぶりの下落率を記録した。
通常、株が上がれば資金が米国に流入し、ドルが買われる――
これが「教科書的な」動きだ。
だが今は、株高にもかかわらずドルが売られている。
😏 「ドルスマイル理論」とは
為替の世界には「ドルスマイル理論」という考え方がある。
元モルガン・スタンレーの為替ストラテジストが提唱したもので、
ドル相場は「笑顔のようなU字型」で動くというものだ。
- ✅ 右側(好景気):米経済が強い → ドル買い
- ✅ 左側(危機):世界が不安定 → 安全資産としてドル買い
- ❌ 中央(安定):世界経済が堅調 → 投資マネーが米国外へ → ドル売り
つまり、米国が強くても世界がもっと強い時には、ドルが弱くなる。
💸 それでもドルが下がる「異例のU字」
今の米国経済は、主要国の中で最も堅調だ。
S&P500指数は6月末から9%上昇し、欧州や香港を上回る。
それでもドルが上がらない理由――。
背景には「ドルへの不信」がある。
米連邦準備理事会(FRB)の追加利下げ観測、
格付け会社による米国債の格下げ、
そして政治の影響を受けやすいFRBへの不安。
さらに、7月に成立した「減税・歳出法(OBBB)」が財政赤字を拡大させ、
“ドルの価値が薄まる”ディベースメント取引(通貨下落を狙う取引)が活発化している。
🪙 投資家が「金」を買う理由
こうしたドル不信の受け皿となっているのがゴールド(金)だ。
通貨下落のリスクヘッジとして、世界の投資マネーが金市場に流れ込む。
「ドルが信頼できないなら、価値を保つ金を持とう」という発想だ。
ウォール街でもいま最もホットなテーマの一つがこの動きであり、
金(ゴールド)の急騰を支える大きな要因になっている。
🌍 それでもドルの代わりはない?
もちろん、ドルの信認が完全に崩れるわけではない。
貿易・決済・金融取引など、あらゆる国際取引でドルは依然“主役”だ。
中国やロシアが「脱ドル化」を進めても、
代替となる通貨は現実的に見当たらない。
それでも、投資家の心理は微妙に変化している。
米バンク・オブ・アメリカの調査によれば、
運用資産20種類のうち、ドルは下から2番目の弱気評価(アンダーウエート)。
「ドルスマイル」が平らになり、“笑えぬドル”となっている。
💡 家計・投資家が押さえるべき視点
ドルの下落は、日本円にも影響する。
円高方向に動けば、輸入コストが下がる反面、
外貨資産や米国株を多く持つ投資家には為替損のリスクもある。
このため今後は、
- 為替ヘッジ型の投資信託を併用する
- 外貨建て資産の比率を見直す
- ゴールドなど「通貨リスク分散」の選択肢を持つ
といった姿勢が大切になる。
🧭 まとめ ―「笑顔のカーブ」が平らになった時代
かつてのドルは、「景気が良くても悪くても強い」通貨だった。
しかし今は、金融政策や政治リスク、財政赤字が
その“笑顔”を曇らせている。
ドルスマイルが平らになった今、
為替市場は静かに新しい時代に入ろうとしている。
📘参考:2025年10月23日 日本経済新聞朝刊「株最高値圏でも『笑えぬドル』」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

