東京に高齢者が集まる理由

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――シリーズ「東京の人口増、その9割が高齢者だった」第1回

「東京の人口はまだ増えている」と聞くと、若い人たちが次々と集まっているのだろうと想像する方も多いでしょう。確かに進学や就職をきっかけに地方から上京する若者は今も少なくありません。しかし実際のデータをよく見ると、東京の人口増の内訳は驚くほど偏っています。

なんと、直近30年間で東京都に増えた人口のうち、約9割が高齢者なのです。つまり、東京は「若者の街」から「シニアの街」へと静かに姿を変えつつあるのです。

では、なぜ高齢者が東京に集まるのでしょうか?そこには都市ならではの事情と、世代ごとの暮らし方の変化が見えてきます。


東京は「若者が集まる街」から「高齢者が集まる街」へ

戦後から高度経済成長期にかけて、東京は若者が集中する街でした。進学や就職のために地方から上京し、そのまま働き続ける人が多くいました。いわゆる「団塊の世代」を中心に、都市部の人口は急増。1970年ごろまでの25年間で、東京都の人口は3倍以上にも膨らみました。

当時の若者たちはその後、企業でキャリアを積み、結婚し、子育てをしながら暮らしました。そして今、彼らが次々と「シニア世代」になっているのです。人口増の背景には、この大きな世代のライフステージの変化があるのです。


子育て世代は郊外へ、介護期は都心へ戻る

東京の人口動態で特徴的なのは「年齢ごとに住む場所の選択が変わる」ことです。

30代から40代前半の子育て世代は、住宅価格や教育環境を考えて郊外や他県に転出するケースが多いです。広めの家を求めて埼玉や千葉、神奈川に移り住む人も多く、いわゆるベッドタウンが発展してきました。

ところが、さらに年齢を重ねると状況は一変します。70代、80代と介護や医療のサポートが必要になる世代になると、「やっぱり東京で暮らしたい」という志向が強まります。

その理由は明快です。

  • 病院や介護施設が多い
  • 公共交通機関が発達していて車がなくても暮らしやすい
  • 買い物や行政手続きなど生活全般の利便性が高い

このように「生活を支えるインフラが整っている」ことが、シニア世代にとって大きな魅力になるのです。


数字で見えてくる「東京回帰」の現象

データを見ても、この傾向は明らかです。2024年の住民基本台帳人口移動報告によると、東京からの転出が転入をどれだけ上回っているかを示す「転出超過」は、60代で6割に達しています。つまり、定年を迎えたばかりの人たちは、郊外や地方に住まいを移すケースが目立ちます。

ところが、70代になると転出超過は5割を下回り、80代後半になると3割近くにまで下がります。つまり「高齢になればなるほど東京に戻ってくる」動きが強まっているのです。

この現象は、医療や介護といったサービスを求める生活者としての合理的な判断の表れだといえるでしょう。


高齢化が進む東京の未来像

この流れを受け、東京都の高齢化は今後さらに進むと予測されています。

  • 2020年時点の高齢化率は22.7%
  • 2065年には29.4%に達し、約3人に1人が高齢者
  • 特に75歳以上の後期高齢者は、2055年には2020年比で36%増

要介護認定を受ける人は2030年度に76万人、認知症高齢者は2040年度に57万人に達すると見込まれています。つまり、介護や医療を必要とする人が確実に増えていくのです。


生活者にとっての意味

ここで大切なのは「この変化が、私たち自身の生活にどう影響するのか」という視点です。

例えば、両親の介護を考えたとき。東京で暮らすことが本人にとって安心である一方で、介護施設や在宅サービスは需要が急増し、希望する支援がすぐに受けられないかもしれません。

また、自分自身が高齢になったとき。便利で医療機関も近い東京は魅力的ですが、その分、介護サービスの人材不足や費用負担の増加といった問題に直面する可能性があります。

つまり「東京に高齢者が増える」というのは単なる統計の話ではなく、私たちの老後の安心や家族の暮らしに直結するテーマなのです。


これから必要になる視点

東京都はすでに介護人材不足に直面しており、今後はさらに深刻になると予想されています。自治体間での人材の奪い合いも懸念されています。高齢者が集まる東京においては、介護や医療の供給体制をいかに維持するかが大きな課題になるでしょう。

一方で、生活者の側も「健康寿命を延ばす」「介護保険制度を知っておく」「地域の支援窓口を早めに活用する」など、自分にできる備えをしておくことが重要になります。


まとめ

東京はかつて「若者が集まる街」でした。しかし今や、人口増の主役は高齢者です。

  • 子育て世代は郊外や地方に移り住む
  • 高齢になると医療や介護の利便性を求めて都心に戻る
  • 結果として、東京の人口増の9割が高齢者という現実につながっている

この流れは私たちの未来に直結します。親の介護、自分自身の老後、そして社会全体の持続可能性――。東京に高齢者が集まるという現象は、誰にとっても他人事ではありません。

次回は、この高齢化がどのくらい急ピッチで進んでいくのか。数字や予測をもとに、東京の未来像をさらに掘り下げていきます。


📌 参考:
東京一極集中の実相(2) 人口増内訳、高齢者が9割(日本経済新聞、2025年10月1日付)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91639170Q5A930C2L83000/


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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