日銀の慎重利上げ路線と高市政権の駆け引き―「政治と市場のはざま」に立つ金融政策

FP

10月30日に開かれた日銀の金融政策決定会合は、予想通り利上げが見送られました。表面上は「現状維持」ですが、その裏では新政権の思惑、米国からの外圧、そして市場の期待が交錯していました。植田総裁はその狭間で神経を使いながら、次の一手に向けた布石を着実に打ち始めています。

高市政権発足と「デフレ脱却」慎重論

会合の直前に発足した高市早苗政権は、金融政策に対して明確な慎重姿勢を示しました。高市首相は「デフレでなくなったと安心するのは早い」と発言し、早期の利上げに警鐘を鳴らしました。
アベノミクスの継承を掲げる政権としては、景気回復の芽を摘むような引き締めには慎重にならざるを得ません。特に株価下落への懸念は強く、政府内には「利上げで政権が足を引っ張られるのを避けたい」という声もあります。

米国からの「口先介入」と市場の反応

一方、外圧も無視できません。ベッセント米財務長官は10月27日の日米財務相会談で「過度な為替変動を防ぐうえで健全な金融政策の策定が重要」と述べ、利上げを促すような発言をしました。SNSでの投稿も重なり、市場は「日銀への催促」と受け止めました。
その結果、一時的に円高・ドル安が進行しましたが、日銀は冷静な姿勢を崩さず、「発言に政策判断が影響することはない」と強調しました。

植田総裁の布石 ― 次は12月か

植田総裁は会合後の会見で「春闘のモメンタムを見極めたい」と述べつつ、「春闘全体を待つ必要はない」とも語りました。つまり、来春の具体的な賃上げ率を待たずに利上げに踏み切る可能性を示唆した形です。
また、米経済についても「下方リスクはやや低下した」と言及し、利上げ環境の改善を示唆しました。次回12月会合での利上げ再開が市場の焦点になりつつあります。

政治との距離をどう取るか

日銀にとって最大の課題は、高市政権との距離の取り方です。過去、安倍政権下で「異次元緩和」へ大きく舵を切らされた経緯があるだけに、政治との関係には敏感です。
日銀内部には「十分に市場が織り込めば波乱は起きず、政権の反対論も抑えられる」との見方もあり、12月に向けて政策委員による発信が増える見通しです。

結論

今回の「利上げ見送り」は、単なる慎重姿勢ではなく、政権・市場・国際環境をにらんだ戦略的な時間稼ぎと言えます。次の12月会合に向け、日銀は着実に地ならしを進めており、利上げ再開のタイミングはそう遠くないでしょう。
焦点は、高市政権がどこまで金融政策の独立性を尊重し、市場と対話できるかに移りつつあります。2026年春闘を待たずに政策金利が0.75%に引き上げられる可能性も現実味を帯びてきました。

出典

出典:2025年11月5日 日本経済新聞「日銀、慎重利上げ路線なお」


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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