「日銀、ETFとREITを売却へ ― 金融政策の転換点」(第1回)では、日銀がETF・REITの売却方針を決めたニュースを整理しました。第2回の今回は、売却の開始時期・ペース・柔軟性をもう一歩踏み込んで解説し、市場と家計にとっての実務的ポイントをまとめます。キーワードは次の3つです。
- 2026年初めごろに売却開始
- 年間売却額は市場売買代金の 約0.05% 相当(ETF・REITとも)
- 株価急落時は一時停止を含む柔軟運用
1. 売却の「設計図」— いつ・どれだけ・どうやって?
1-1. いつ:2026年初めごろスタート
決定会合では「準備が整い次第」としつつ、目標として2026年初めごろの着手が示されました。市場実務(売却執行や内部ガイドライン)を詰める時間を確保し、年金基金など大口投資家の行動計画と衝突しにくいタイミングを狙います。
1-2. どれだけ:年0.05%ルール
- ETF:簿価ベースで約3,300億円/年、時価で約6,200億円/年
- REIT:簿価約50億円/年、時価約55億円/年
いずれも「市場全体の売買代金の約0.05%」という超・少量設計。これは、過去に日銀が銀行株を売却した際の基準を踏襲しています(市場の攪乱を避ける実績ある目安)。
1-3. どうやって:マーケット・フレンドリーに
- 裁量の余地:相場急落時は一時停止、落ち着けば再開。
- 透明性:定例会合でペースの見直し可能。
- 価格影響の最小化:時間分散・板状況への配慮などテクニカル対応が前提。
2. 「最終出口」へ— なぜ今、そして何が終わるのか
2-1. 出口戦略のロードマップ
- 2024年3月:マイナス金利とYCCを解除
- 2024年8月:国債買い入れの縮小(量的引き締め)
- 2026年初め:ETF・REITの売却着手 ← 最後のピース
ETF買い入れは主要中銀に例の少ない政策でした。中央銀行が株式市場の下支え役を担う異例の構図は、価格形成の歪みや企業統治(ガバナンス)への副作用も指摘されてきました。今回の決定は、“日銀が大株主”の状態を徐々に解消する方向性を明確にした点で、大きな意味があります。
2-2. 「100年以上」の重み
現行ペースを機械的に当てはめると、完了まで100年以上かかるとの試算が語られています。これは「永遠に売らない」ではなく、市場の受容力に合わせた“副作用最小化”の長期戦だと理解するのが妥当です。重要なのは“日銀が買い手に戻る可能性は視野に入れていない”と明確にした点。正常化の片道切符であることを示しました。
3. 市場の受け止め— ボラティリティ上昇も「実額は小さい」
決定直後の株式市場は乱高下(上昇→急落→小幅安で引け)。象徴的なのは、心理面では波立っても、金額面では極小というギャップです。
ポイントは次の通り:
- 需給の実影響は限定的:0.05%は「日々のノイズ」に近い水準。
- 心理面での“売り手参入”効果:ニュース・フローに市場が敏感化。
- 長い時間軸:売却を急がない方針は過度な下押しの回避に寄与。
実務的には、指数や需給に偏りが出た局面を丁寧に均していく作業に近く、テールリスク(急落)時には休む設計が“安全弁”になっています。
4. 金利と為替—「利上げ観測」との絡み
- 政策金利は0.5%据え置きだが、利上げ提案に2名が賛成。
- 年内の追加利上げ観測が強まる一方、関税や景気の不確実性を日銀は注視。
- 円安=輸入物価上昇のルートも意識され、タイミング判断はデータ次第。
要するに:ETF・REIT売却は「金融環境を引き締める三本柱」の1本で、利上げ・国債保有圧縮と一体で“静かな正常化”を進めるイメージです。
5. 個人投資家・家計のための実務ポイント
5-1. 株式・投信
- 短期:ヘッドラインでボラティリティは上がりやすい。積立・分散・長期軸で“ニュース耐性”を高める。
- 中期:日銀の買い下支えが薄れるぶん、企業業績とガバナンスが価格の軸に。銘柄選別の重要性が増す。
- REIT:売却額は小さいが、金利動向の方が価格弾力性は大。利回り・空室率・LTVなど基本ファンダを再点検。
5-2. 債券・金利商品
- 短中期金利の上振れリスクに備え、デュレーション分散を意識。個人向け国債(変動10年)など金利上昇局面に強い設計の選択肢も再評価。
5-3. 住宅ローン・借入
- 固定・変動の見直しは、総支払額+心理的耐性(眠れるかどうか)で判断。繰上げ返済は流動性確保(生活防衛費)とセットで。
5-4. 為替・物価
- 円安長期化に備え、インフレ耐性のある支出設計(通信・電力のプラン最適化等)と、外貨・外貨建て資産の比率ルールを明文化しておくとブレにくい。
6. Q&A:よくある疑問にコンパクト回答
Q1. 「0.05%」でも株価には効く?
A. 実額は小さく、需給の実影響は限定的。ただし“日銀が売り手”という心理効果は短期のボラティリティ要因になります。
Q2. いつまで続く?途中で増速は?
A. 現時点では長期戦前提。ペース変更は会合で可能だが、市場不安時にスローダウン/停止を優先する設計です。
Q3. REITは大丈夫?
A. 売却額は極小。価格への一次影響より、金利動向・物件需給・分配の安定性が主要ドライバーになりやすいです。
Q4. またETFを買う局面は?
A. 総裁は再開を「視野に入れていない」と明言。買い手に戻る想定は置かないのが基本スタンスです。
7. いま取れる行動チェックリスト(保存版)
- □ アセット配分表を最新化(株/債/外貨/現金の比率)
- □ 積立投資は“そのまま”(ニュースで止めない)
- □ 金利上昇の耐性テスト(ローン・社債・長期債のデュレーション)
- □ 円安・物価上振れの家計シミュ(食費・光熱費・教育費の上限幅)
- □ REIT保有は分配の安定性・金利感応度の棚卸し
- □ 「急落時の売却」ではなく、リバランスの自動ルールを紙に書く
まとめ
ETF・REITの売却は、異次元緩和からの正常化を締めくくる「最後のピース」。実額は小さく、市場の実需を傷つけない設計です。一方で、ニュース感応度の高まり=短期のボラティリティ上昇は織り込みたいところ。
個人としては、長期・分散・規律を守りつつ、金利・為替のリスク管理を一段引き上げることが、最も実務的な対応と言えます。
参考
本稿は2025年9月19〜20日付 日本経済新聞各面の報道内容をベースに再構成しています(会見要旨・解説・市場面など)。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

