高市政権が掲げる「日本成長戦略」は、岸田政権の「新しい資本主義」を継承しつつ、より明確に成長志向へ舵を切った政策体系です。
中心にあるのは「資産運用立国」と「危機管理投資」。いずれも金融・産業・財政を結びつけ、家計と企業の資金を経済成長へ循環させることを目的としています。
本稿では、これまでのシリーズで扱った各テーマを総括し、今後の日本経済が直面する課題と展望を整理します。
第一の柱:資産運用立国 ― 家計資金を動かす仕組み
資産運用立国の基本構想は、「貯蓄から投資へ」の流れを国民レベルで定着させることです。
新しいNISAの恒久化・非課税枠拡大はその象徴であり、長期・積立・分散の投資を支える制度として成熟しつつあります。
ただし、制度が整っても行動が変わらなければ経済効果は限定的です。
- 投資教育の普及
- 商品開示の透明性向上
- 金融機関の販売姿勢改革
といった「利用者側の信頼」を高める取り組みが不可欠です。
金融所得課税の議論でも、単なる再分配ではなく、投資促進と公平性を両立する制度設計が求められています。
家計が経済成長に参加するための“社会インフラ”を整えることが、この政策の本質です。
第二の柱:危機管理投資 ― 国家の成長と安全保障を結ぶ
危機管理投資は、成長戦略と経済安全保障を一体で捉える新しい投資モデルです。
政府がリスクを取り、民間投資を誘発する形で、脱炭素・半導体・AI・デジタルインフラといった基盤領域を支えます。
この枠組みを支えるのが官民ファンドです。
しかし、現状では目的の重複や案件の選別基準が不明確で、効率性に課題があります。
今後は、ファンド機能の再編を進め、投資後の出口戦略や成果評価の仕組みを明確化することが急務です。
危機管理投資の真価は、「財政支出」ではなく「国家リスクの回避」にあります。
将来の経済的・地政学的ショックに備え、官民協調で成長と安全を両立させることが目的です。
第三の柱:市場と行動 ― 政策の実効性を測る指標
市場の動きは、政策の信頼度を映す鏡です。
高市政権発足後、株式市場は5万2000円台を突破し、外国人投資家の資金が流入しました。これは、財政拡張そのものよりも「政策の継続性と一貫性」への評価といえます。
ただし、真の実効性は家計や企業の行動に現れます。
- 家計が資産運用を通じて消費・投資を拡大するか
- 企業が自社株買いではなく成長投資へ向かうか
- 官民ファンドが市場資金を呼び込めるか
これらの行動変化が同時に進んでこそ、政策は「経済成長の仕組み」として機能します。
成長戦略の本質は「制度」ではなく「行動」です。
総括:財政・投資・信頼のバランス
日本の成長戦略が直面する最大の課題は、財政規律・投資促進・国民の信頼という3要素のバランスです。
財政規律が緩めば持続可能性が損なわれ、投資促進が弱ければ景気回復は限定的になります。
そして、最も重要なのは「政策への信頼」です。
政府が透明な方針を示し、企業が責任ある投資を行い、家計が将来に安心して資産を託せる。
この信頼の連鎖が続く限り、「成長と分配の好循環」は現実のものとなります。
資産運用立国と危機管理投資という2つの車輪を支えるのは、制度でも財源でもなく、“信頼を資本に変える力”です。
日本経済の行方は、この信頼の積み重ねにかかっています。
出典:
2025年11月3日 日本経済新聞「『資産運用立国』岸田路線を継承」
内閣府「日本成長戦略本部(第1回)会合資料」
金融庁「資産運用立国に向けた政策方針(2025年度)」
経済産業省「危機管理投資推進検討会 中間報告(2025年10月)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

