日本国債をめぐる評価が、あらためて注目を集めています。
衆院解散を表明した高市早苗首相のもとで、消費税減税を含む積極財政論が与野党で広がり、長期金利は一時2%台半ばまで上昇しました。
こうした環境のなか、日本経済新聞は米国の主要格付け会社に、日本国債の信用力と将来の格下げリスクについて相次いでインタビューしています。
本稿では、それらの発言を整理しながら、「日本国債の格下げリスクはどこにあるのか」「逆に、どこは想定以上に安定しているのか」を冷静に読み解いていきます。
日本国債はすでに「弱点込み」で評価されている
S&Pグローバル・レーティングのレイン・イン氏は、日本の財政リスクについて比較的落ち着いた見方を示しています。
歳出拡大の圧力は確かに強まっているものの、足元では税収が堅調に増加しており、利払い負担は「十分に管理可能な水準」にあるといいます。
注目すべきは、「日本の財政リスクや信用面の弱点の多くは、すでに現在の格付けに織り込まれている」という点です。
つまり、
・高水準の政府債務
・高齢化による将来負担
・成長力の制約
といった日本特有の構造問題は、格付け会社にとって「想定済み」の要素だということです。
そのため、財政が多少悪化したからといって、短期間で格下げに直結する可能性は低いと評価されています。
プライマリーバランスは「絶対条件」ではない
高市政権が掲げる「単年度PB黒字化目標の見直し」についても、格付け会社の見方は冷静です。
S&Pが重視しているのは、目標の形式ではなく、
純債務残高の対GDP比が中長期的に低下していくかどうか
という実質的な指標です。
PB黒字化という言葉そのものよりも、
・名目GDPが成長しているか
・債務の増加ペースが抑えられているか
・返済能力が維持されているか
といった点が、評価の核心だといえます。
この点は、PB目標をめぐる政治的な議論と、市場・格付けの視点が必ずしも一致していないことを示しています。
金利上昇と円安はどこまでリスクになるのか
長期金利の上昇は、理論的には政府の利払い負担を増やします。
しかし、日本政府が発行する国債の平均残存期間は約9年と長く、金利上昇の影響は時間をかけて表れます。
また、名目GDP成長率と比べると、依然として金利水準は相対的に低い位置にあります。
税収増と相殺されるかたちで、現時点では「著しく悪化している」とは評価されていません。
一方で、S&Pが明確に警戒しているのが、急激かつ長期的な円安です。
円安そのものではなく、それが「日本の競争力低下の兆し」とみなされる場合、経済的な裏付けが弱まり、格付けにマイナスに働く可能性があるとしています。
最大の格下げリスクは「成長の失速」
S&Pが最も深刻なシナリオとして挙げたのは、経済成長の大幅な鈍化です。
特に焦点となっているのが、労働力不足です。
外国人労働者の受け入れを制限する方向に政策が傾き、労働人口が急減すれば、長期的な成長見通しに悪影響を与えかねません。
財政拡張や金利上昇そのものよりも、
「成長力が失われること」
これこそが、日本国債にとって最大の格下げリスクだという点は、非常に示唆的です。
ムーディーズが重視する「国内貯蓄」という安全弁
ムーディーズ・レーティングスのマーティン・ペッチ氏は、日本国債の評価において「国内貯蓄」の重要性を強調しています。
日本には、民間部門に膨大な貯蓄が存在し、政府は海外資金に大きく依存せずに国債の発行や借り換えを行えています。
この点は、他国にはない日本の大きな強みです。
一方で、
・高齢化による社会保障費の増加
・防衛費の増額
・大型補正予算の常態化
といった構造的要因が、債務削減を難しくしている点も指摘されています。
国内貯蓄が将来にわたって十分に維持されるかどうかは、中長期的なリスク要因として意識されています。
結論
今回の2つのインタビューから浮かび上がるのは、日本国債が「今すぐ危険水域にある」という評価ではありません。
むしろ、
・財政の弱点はすでに織り込み済み
・短期的な金利上昇は管理可能
・国内貯蓄という強固な土台がある
という、想像以上に冷静な見方が示されています。
一方で、最大のリスクは明確です。
それは、成長の失速です。
財政の形式論よりも、名目GDP成長、労働力確保、競争力の維持といった実体経済の基盤が、国債の信用力を左右する時代に入っています。
「責任ある積極財政」が問われているのは、支出の規模ではなく、成長につながるかどうか。
日本国債の評価は、今後の経済運営の質を映す鏡になりつつあります。
参考
・日本経済新聞「日本国債、成長鈍化が格下げリスク 米格付け大手に聞く」
・日本経済新聞「国内貯蓄、評価のカギに」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
