企業が成長するためには「お金の流れ」が欠かせません。
その流れを支える仕組みが、株式・借入・社債という3つの資金調達手段です。
株式は出資による資金、借入は銀行融資。そして社債は「企業が投資家から直接借りるお金」です。
ところが、日本ではこの社債市場がなかなか育っていません。
税理士・FPの立場から見ると、そこには企業財務と投資文化の双方に根深い構造的な課題があります。
1️⃣ 銀行依存が根強く、リスクマネーが流れない
日本企業の資金調達構造をみると、今もなお銀行中心の金融慣行が支配的です。
日本証券業協会の調べによると、企業資金のうち「銀行などからの借入」は24%、一方「社債などの債務証券」はわずか4%。
米国では社債による調達が借入を上回っており、対照的です。
銀行は長年の取引関係を通じて企業を支えてきましたが、裏を返せば金融機関の支配力が強すぎて、直接金融が育たなかったとも言えます。
とくにスタートアップや中堅企業が新たに資金を集めようとしても、国内の投資家層が薄く、社債を引き受けるリスクマネーが存在しないのです。
2️⃣ 高格付け債に偏る「安全志向」
日本の社債市場の約9割は「シングルA」以上の高格付け債です。
これに対して、米国では「BB以下」のいわゆるハイイールド債(高利回り社債)が全体の2割超を占める年もあります。
2025年7月、経営再建中の日産自動車は約8600億円の社債を海外市場で発行しました。最大利率は8%。
また、キオクシアも約3000億円を海外で起債しました。
いずれも国内市場では買い手がつかず、高い利回りを求める海外投資家が引き受けたのです。
日本の投資家がこうした投資機会を逃しているのは、「安全第一」が行き過ぎている証拠。
保険会社などの機関投資家はリスクを取りにくい運用規制のもとで、横並びの投資行動を続けています。
結果として、“中間リスク・中間リターン”という健全な資金循環が欠けているのです。
3️⃣ 破綻時の「優先順位」問題も影響
社債が敬遠される理由のひとつに、破綻時の回収リスクがあります。
2023年のユニゾホールディングス破綻では、資産売却で得た資金が取引銀行に優先的に返済され、社債投資家の弁済率はわずか2割でした。
銀行融資が優先される構造の中では、投資家は社債に魅力を感じにくいのです。
これは、税理士の目線で言えば「債権順位のリスク管理」の問題でもあります。
同じ利率でも、回収順位(シニア債・劣後債)を理解していなければ、リスク調整後の利回り(リスクプレミアム)は適正に評価できません。
投資教育としても、この点を正しく伝えることが大切です。
4️⃣ 社債市場の発展は「企業財務の成熟」にもつながる
社債市場の発展は、単なる投資機会の拡大ではありません。
企業にとっても資金調達の多様化と資本コスト意識の向上につながります。
たとえば、銀行融資だけに依存している企業は、景気後退時に一斉に貸し渋りの影響を受けます。
一方で、社債を発行して投資家との信頼関係を築いている企業は、市場を通じて自らの信用力を測りながら経営判断ができる。
これは、資本市場型経営への第一歩です。
FPとしての立場から見ても、社債市場が整えば家計の運用先の選択肢が広がり、リスク分散が可能になります。
預金と株式の間にある「第3の運用先」が社債なのです。
5️⃣ デジタル社債が個人投資家の扉を開く
新たな動きとして、ブロックチェーン技術を活用した「デジタル社債」が注目されています。
発行・管理コストを下げ、1万円単位の小口投資を可能にする仕組みです。
これが普及すれば、個人投資家でも「企業に直接お金を貸す」体験がしやすくなり、
社債市場に新しい参加層が生まれるでしょう。
AI時代の今こそ、データを活用してリスクを見える化し、個人投資家が“信頼できる企業”を選ぶ力を育てる時期に来ています。
6️⃣ 「資産運用立国」への本当の道筋
岸田前首相が掲げた「資産運用立国」は、家計金融資産2200兆円の半分以上を投資へ振り向ける構想でした。
しかし、その多くが株式や投信に偏り、“債券による長期安定運用”が育っていないのが現実です。
社債市場の整備は、投資家にとって「リスク分散」を、企業にとって「資本コストの最適化」をもたらす。
両者が直接つながることで、日本経済全体の資金循環が変わる可能性があります。
🔍 税理士・FPとしての提言
- 社債の「信用格付け」と「利回りスプレッド」を理解する教育を広めること
- 中小企業やスタートアップにも使いやすい社債発行スキームを整備すること
- 銀行主導から「市場主導」への金融シフトを支える政策を進めること
- デジタル社債やクラウドファンディング型債券など、新しい形の直接金融を普及させること
税理士・FPの役割は、単に数字を見ることではなく、
**「お金の流れを変える力」**を社会に広めることだと感じています。
社債市場の再生は、その第一歩になるかもしれません。
📚 出典:2025年10月13日 日本経済新聞朝刊
「育たぬ社債市場、米の1割未満」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91901030S5A011C2TL5000/?n_cid=dsapp_share_ios
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

