新築マンション価格が年収の10倍に上昇する構造変化と、これからの住まい戦略

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新築マンションの価格が地方を含めて急激に上がり、平均価格が地域の平均年収の10倍を超える都道府県が24に達したといわれます。かつては東京圏の特殊事情と受け止められていた住まいの高騰が、いまや全国的な現象へと広がりつつあります。
年収倍率10倍という水準は、働き手が1人の家庭では購入が極めて難しく、共働きや富裕層に対象が偏る状況を生んでいます。住宅は生活の基盤であり、家計の安定にも直結します。今回は新築マンション価格がここまで高騰した理由と、実需層が直面する課題、そしてこれからの住まい選択の方向性について整理します。

●1 年収倍率10倍という“新基準”が地方にも拡大

2024年の新築マンションの年収倍率は全国平均で10.38倍となり、2年連続で10倍を超えました。
特に象徴的なのは、東京以外の地域でもこの倍率が急上昇している点です。

  • 10倍超えの都道府県:18 → 24へ増加
  • 新たに10倍超となった地域:福島、岡山、熊本など
  • 東北では山形を除く5県が10倍超

「片働き世帯では手が届かない」という状況が広がり、住宅取得のハードルは数年前とは比べものにならないほど高くなっています。

●2 価格高騰の背景① 建築コストの上昇が止まらない

マンション価格の上昇を押し上げている主要因が建築コストの高騰です。
建築費指数では過去1年で4~6%上昇し、資材価格の高止まりと人件費の上昇が続いています。

不動産会社にとってコスト増は収益を圧迫するため、自然と販売価格に転嫁せざるを得ません。その結果、平均価格帯そのものが一段上の水準へと移行しています。

●3 価格高騰の背景② 「億ション」の地方拡大という構造変化

かつては都市部だけの存在だった1億円超の“億ション”が、いまや地方でも増えています。

  • 熊本駅前タワーマンションでは最上階2億円超
  • 岡山では3億円超の住戸を含む物件が即日完売
  • 札幌中心部でも1億円台の高層住戸が登場

地方都市の中心部で高級物件が急増し、平均価格を押し上げる形になっています。購入者の多くは経営者、医師、富裕層であり、セカンドハウスや投資目的の需要も高まっています。

こうした現象は「住宅=生活必需品」から「住宅=投資商品・資産商品」へと性格が変化していることを示しています。

●4 価格高騰の背景③ 土地の奪い合いによる用地取得コスト増

地方都市では戸建て需要が依然として根強く、マンション用地は希少です。
また近年はホテルや商業施設との競合も激しく、用地取得コストが高騰しやすい構造になっています。
その結果、開発会社は高額物件をつくるほうが採算を取りやすくなり、供給が偏りやすくなっています。

●5 買い手側の変化:共働き前提、ペアローン前提の市場へ

仙台などでは共働き・ペアローンが「ほぼ当たり前」になったとされます。
単身年収では到底届かない水準になり、「2人の収入を合わせてようやく買える」という市場構造にシフトしています。

住宅ローンの指標では、

  • 5~7倍:現実的な範囲
  • 8倍超:家計が苦しくなりやすい
    とされますが、現在の市場は明らかにその基準を大きく上回っています。

●6 実需層が直面する“ゆがみ”

高額物件が売れ行き好調というニュースがある一方で、実需層の住宅取得は難しくなっています。

  • 中間層の所得が伸び悩む
  • 物価上昇で可処分所得が減少
  • 住宅ローン金利の先行きが不透明
  • 家賃も上昇して貯蓄ペースが鈍化

「買える人はますます買える」「買えない人はより遠ざかる」という二極化が進みやすい環境です。

●7 住宅取得の選択肢はどう変わるか

新築マンションの価格が構造的に上がる中で、住まいの選択肢は次の方向に広がります。

  1. 中古マンションを主軸とする戦略
    新築と中古の価格差が拡大しており、中古の相対的な魅力が高まっています。
  2. 郊外への移住やコンパクトシティの活用
    同じ予算でも住環境の選択肢が大きく変わるため、検討する人が増えています。
  3. 戸建て回帰(地方・郊外)
    土地付きの戸建てのほうが割安になるケースが増えています。
  4. 賃貸で柔軟性を確保する“持たない選択”
    金利上昇局面では賃貸の合理性が再評価されます。

住まいは「資産」でもありますが、それ以上に「生活の器」でもあります。無理な住宅取得は家計全体を圧迫するため、無理なく持続できる範囲での判断が求められます。


■結論

新築マンションの年収倍率が地方でも10倍を超えるという状況は、単なる一時的な高騰ではなく、建築コスト、土地需給、富裕層需要、投資需要など複数の構造要因が重なった結果です。
実需層にとって住宅取得はこれまで以上に慎重な判断が必要となり、共働き・ペアローン前提の市場で負担感は増大しています。

これからの住まい選択では、新築一択ではなく、中古・郊外・戸建て・賃貸といった多様な選択肢を比較し、家計の長期安定性を軸に判断することが重要になります。高額物件が売れる裏側で、中間層が住宅取得から遠ざかっていく構造が強まっている今こそ、住まいと家計の両面からの戦略的な目線が求められます。


■参考

  • 日本経済新聞「新築マンション、年収の10倍」2025年12月9日朝刊
  • 建設物価調査会「建築費指数」
  • 東京カンテイ 各種調査資料

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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