夫婦で住宅を購入する際、ペアローンを利用する人が増えています。
しかし、どちらかが亡くなったり、重い病気になったりした場合、もう一方のローンはどうなるのかという不安もあります。
こうした不安に対応するために登場したのが、「ペアローン連生団信(ペア団信)」と呼ばれる新しいタイプの団体信用生命保険です。
今回は、このペア団信の仕組みと費用、そして通常の生命保険との比較ポイントを整理します。
1. 団体信用生命保険(団信)とは?
住宅ローンを契約する際、ほとんどの金融機関では団体信用生命保険(団信)への加入が条件になっています。
団信は、契約者が死亡または高度障害状態になった場合に、残っているローンの返済が免除される保険です。
ただし、夫婦でペアローンを組んだ場合、通常はそれぞれが個別に団信へ加入します。
この場合、免除されるのは亡くなった本人が契約している分のローンだけで、もう一方のローンはそのまま残ります。
2. 新しい仕組み「ペア団信」とは?
ペアローン利用者の増加にあわせ、近年では夫婦どちらかが万が一のときに、2人分の債務がまとめて免除される「ペア団信」が登場しています。
PayPay銀行、auじぶん銀行、みずほ銀行、りそな銀行などが取り扱っています。
主な保障内容
- 一般タイプ:死亡または高度障害状態で2人分のローンが全額免除
- がん保障付きタイプ:夫婦いずれかががんと診断された場合に2人分のローンが免除(100%免除または50%免除タイプ)
- プレミアムタイプ(auじぶん銀行など):がん・急性心筋梗塞・脳卒中のほか、入院一時給付金なども付加
PayPay銀行によると、2024年6月に導入されたペア団信では、「がん100%タイプ」が最も人気とのことです。
共働き家庭では、万が一のときに収入が大きく減るため、2人分の債務がなくなる安心感が選ばれているようです。
3. ペア団信の費用と金利上乗せ
団信の保険料は、住宅ローン金利に上乗せする形で支払います。
保障が厚くなるほど金利の上乗せ幅も大きくなります。
例として、以下のような差があります。
| 銀行 | タイプ | 金利上乗せ幅(年率) |
|---|---|---|
| みずほ銀行 | 一般・がんタイプ共通 | +0.2% |
| りそな銀行 | 一般・がんタイプ | +0.1〜0.2%(年齢別) |
| PayPay銀行 | 一般・がん50%・がん100% | +0.1〜0.4%程度 |
| auじぶん銀行 | プレミアムタイプ | +0.3〜0.4%前後 |
費用シミュレーション
夫婦で合計8000万円(各4000万円)を借り入れ、金利年1%、期間35年とした場合:
- 団信なし:毎月返済額 約22.6万円
- 一般ペア団信(+0.2%):約23.3万円(総返済額+約320万円)
- がん100%タイプ(+0.4%):約24.1万円(総返済額+約640万円)
つまり、万が一の保障を広げるほどコストも上がるということです。
金融機関を選ぶ際は、団信込みの「実質金利」で比較することが重要です。
4. ペア団信の課税リスクにも注意
意外と見落とされがちなのが、所得税の課税です。
ペア団信によって債務が免除された場合、その免除額は一時所得として課税対象になります。
(死亡時は相続税の対象となり、所得税の課税はされません。)
残された家族の税負担にも影響するため、契約時に税務上の取扱いを確認しておきましょう。
5. 通常の生命保険とどちらが得か?
ペア団信は便利ですが、誰にとっても最適とは限りません。
夫婦の年齢や家庭の状況によって、通常の生命保険で代替した方が合理的なケースもあります。
- 団信は年齢に関係なく金利上乗せが一律
→ 年齢が高い人ほど割安、若い人ほど割高になる傾向。 - 一方、生命保険の保険料は年齢に応じて変化
→ 若い人は団信よりも安く保障を確保できる場合がある。
一般的には、35歳前後が分岐点です。
若い夫婦の場合、ペア団信を選ばず、通常の生命保険(定期保険など)で代替する方がトータルコストを抑えられるケースがあります。
6. どんな家庭にペア団信が向いているか?
ペア団信の必要性は、家族構成や働き方によって変わります。
| 家族の状況 | ペア団信の有効性 |
|---|---|
| 子どもが小さい・共働き必須 | ◎ 万一の収入減に備えやすい |
| どちらかが専業・扶養内勤務 | ◯ 生活費減少を考慮して検討 |
| 子どもなし・双方フルタイム | △ 保険料負担に見合わない場合も |
| 夫婦ともに独立・貯蓄多め | ✕ 通常の生命保険で代替可能 |
「どのくらいの保障が必要か」ではなく、「どんな家族リスクをカバーしたいか」を軸に考えると、選択を誤りません。
7. まとめ:保険もローンも“夫婦の共同設計”で
ペア団信は、共働き夫婦の現実に寄り添った新しい仕組みです。
ただし、金利上乗せによるコスト負担や課税の仕組みを理解せずに加入すると、後悔することもあります。
ポイントは次の3つです。
- 団信込みの「実質金利」で比較する
- 生命保険と費用・保障内容を見比べる
- 夫婦の家計バランスに合わせて保障を設計する
住宅ローンは「お金の契約」であると同時に、「夫婦の人生設計」です。
万が一の時にどんな形で家と家計を守りたいか――その答え次第で、最適な選択は変わります。
📘 参考出典
〈マネー相談 黄金堂パーラー〉夫婦で借りる住宅ペアローン(下)団信
出典:2025年10月15日 日本経済新聞 朝刊
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91936610V11C25A0EAC000/
〈通常の生命保険と比較を〉
出典:2025年10月15日 日本経済新聞 朝刊
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO91936680V11C25A0EAC000/
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
