世界各国で財政赤字が膨らむなか、政府が国民の資産に目を向け始めています。国防、インフラ、エネルギー転換、高齢化など財政支出の圧力は増すばかりで、従来の増税や歳出削減では追いつかない状況が続きます。そこで注目されているのが、国民が保有する年金・預金・投資資産を国内の政策目的へと誘導する「個人金融資産の動員」という流れです。
防衛債の創設、年金基金の国内投資の義務化論、優遇措置による個人マネーの囲い込みなど、すでに複数の国で新しい動きが始まっています。本稿では、この世界的潮流がなぜ起きているのか、どこへ向かうのか、そして日本の個人・家庭がどのように備えるべきかを整理します。
1. 財政赤字の拡大と「国民マネー」への視線
多くの国で政府債務が過去最高水準にあり、特に防衛力強化や高齢化対応に必要な支出は増え続けています。増税は政治的に困難、歳出削減は社会的な反発が強く、国は新たな資金源を求めざるを得ません。
そのとき必ず議論に上がるのが、国民が保有する膨大な金融資産です。
世界的にみても、家計が持つ資産は国のバランスシートと比べて圧倒的に大きく、政府にとって魅力的な「資金の貯蔵庫」に映ります。
2. ルクセンブルクの「防衛債」にみる象徴的な動き
2026年に発行が見込まれるルクセンブルクの防衛債は、個人投資家に防衛目的での国債購入を促すものです。
戦時国債を思わせる性格を持ちながら、現代的な「金融抑圧」の一形態とも位置づけられます。
金融抑圧とは、国が国民の金融資産に間接的に負担を求める政策群の総称で、具体例としては以下のようなものがあります。
- 低金利政策(実質金利の低下)
- 資産の国内投資義務化
- 国債を優遇する税制
- 年金基金への国債保有比率の要求
直接的な税ではないため反発は小さいのですが、最終的には個人の資産を政策目的へ振り向けるという点で増税に近い効果を持ちます。
3. 「愛国」×「税優遇」×「政策目的」の新しい資金調達モデル
各国の防衛債・インフラ債は、「愛国心への訴求」+「税優遇」という組み合わせで、個人の資産を誘導しようとしています。
特に、
- 国防
- 生活インフラ
- グリーンエネルギー
- 高齢化対策
といった政治的重要度の高い分野には、巨額の資金が継続的に必要です。個人が保有する資産を“そこまで広げたい”という政府の意図が見え隠れします。
4. 年金基金は“最大のターゲット”
年金基金は規模が大きく、安定的な運用主体であるため、政府が最も注目する資産です。
カナダ・英国・オーストラリアなどでは、政府が「もっと国内に投資すべき」と年金基金へ圧力を強めています。しかし、運用担当者はこれに強く反発しています。
- 「加入者の利益が第一」
- 「政府が投資先を指図するのは最悪」
- 「年金資産は国の難題を片っ端から解決するための貯金箱ではない」
このような声が相次いでいます。
年金は国民の将来生活に直結するため、政府による介入は極めて慎重であるべきですが、財政難の国にとっては魅力的な資金源であり、今後も議論は続くと見られます。
5. 個人資産“動員”のインセンティブ競争が始まる
自由に動く個人マネーを政策目的に振り向けるため、各国は優遇策や専用商品を打ち出すようになりました。
日本でも、今後の財政状況によっては、
- 目的別国債(防衛、インフラ、子育て)
- 税優遇付き個人向け債券
- 年金基金投資の政策誘導
- 国内株式やインフラ投資への優遇制度
などがさらに広がる可能性があります。
注意したいのは、これらが短期的には「お得」に見える一方で、長期的には資産選択の自由度を奪う側面があることです。
インセンティブはやがて“義務”や“暗黙の強制”に変わることもあるからです。
結論
世界的に財政負担が増す中、政府が国民の資産に目を向ける構図は今後ますます強まります。これは増税や歳出削減を避けたい政治にとって魅力的な手段であり、実質的な金融抑圧として個人資産に影響を与える可能性があります。
私たちができる備えは、
- 政策誘導型の商品を冷静に見極める
- 自分の資産配分を自律的に決められる状態を保つ
- 優遇策に飛びつく前に長期リスクを評価する
という基本を徹底することです。
「国民の貯金箱」として扱われないためには、情報を理解し、自分の資産を主体的に守る姿勢が欠かせません。
これから数年は、個人金融資産のあり方が大きく問われる時代に入っていきます。
参考
政府が狙う国民の「貯金箱」(日本経済新聞ほか)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
