近年、フリーランスを取り巻く取引環境は大きく変わりつつあります。2023年にフリーランス新法が施行され、2026年1月には改正下請法(中小受託取引適正化法)が施行されました。
どちらも「弱い立場に置かれがちな受注側を守る」という共通の問題意識を持っていますが、内容や射程は異なります。実務の現場では、「どちらが適用されるのか」「どう違うのか」が分かりにくいという声も少なくありません。
本稿では、改正下請法とフリーランス新法の交差点を整理し、フリーランスや小規模事業者がどのように理解・活用すべきかを考えます。
二つの法律は何が違うのか
まず大枠として、両制度の役割を整理しておく必要があります。
フリーランス新法は、個人として業務を受託するフリーランスの取引条件を明確化し、不利な扱いを受けないようにすることを主眼としています。契約条件の明示や、報酬支払期日の明確化など、「最低限守るべき取引ルール」を定めた制度です。
一方、改正下請法は、取引当事者の規模差に着目し、発注側の優越的地位の濫用を防ぐことを目的としています。価格協議の拒否や一方的な条件決定を禁じる点に特徴があります。
つまり、フリーランス新法は「契約の入り口」を整える制度、改正下請法は「取引過程の力関係」を是正する制度と整理できます。
フリーランスは両方の対象になり得る
重要なのは、フリーランスだからといって、必ずフリーランス新法だけが適用されるわけではないという点です。
発注側が一定規模以上の企業であり、情報成果物作成委託などの形態に該当する場合、改正下請法の対象となる可能性があります。この場合、価格協議を拒否されない権利や、一方的な価格決定を受けないという保護が及びます。
つまり、フリーランスは取引内容や相手方によって、
・フリーランス新法の枠内で保護される場合
・改正下請法の枠内で保護される場合
・両方の考え方が重なって作用する場合
があり得ます。
契約明示と価格協議は「別の次元」
両制度を混同しやすい点の一つが、契約条件の明示と価格協議の関係です。
フリーランス新法は、業務内容や報酬、支払期日などを明示することを求めています。しかし、条件が明示されているからといって、その価格が合理的であるかどうかまでは問いません。
一方、改正下請法は、価格の決め方そのものに踏み込みます。条件が明示されていても、協議の求めを拒否したり、一方的に価格を押し付けたりすれば問題になります。
実務上は、「契約書があるから大丈夫」と考えるのは危険です。契約の有無と、価格協議の適正さは別の次元で評価されます。
実務対応の優先順位
フリーランスや小規模事業者が実務で意識すべき優先順位は明確です。
第一に、契約条件を文書で確認することです。これはフリーランス新法の基本であり、すべての出発点になります。
第二に、コスト上昇や業務内容の変化があった場合は、価格協議を求める姿勢を持つことです。改正下請法は、その協議を拒否されないための後ろ盾になります。
第三に、やり取りの記録を残すことです。協議を求めた事実や、その経緯を客観的に示せる形で残すことが、両制度を実効性あるものにします。
フリーランス新法だけでは足りない理由
フリーランス新法は重要な制度ですが、それだけで価格転嫁の問題が解決するわけではありません。報酬が低く設定されていても、形式的に契約条件が明示されていれば、直ちに違反とはならないからです。
改正下請法は、この点を補完する役割を果たします。価格がどのように決まったのか、協議の機会があったのかという「プロセス」に光を当てることで、実質的な取引の公正さを確保しようとしています。
両制度は競合するものではなく、組み合わせて初めて効果を発揮するといえるでしょう。
結論
改正下請法とフリーランス新法は、それぞれ異なる角度から受注側を支える制度です。フリーランスにとって重要なのは、「自分はどちらの枠組みにいるのか」を固定的に考えないことです。
契約の明示はフリーランス新法、価格協議の実質化は改正下請法。
この二つを切り分けて理解することで、制度を実務に活かす道が見えてきます。
フリーランスが取引の主体として持続的に働くためには、守られる立場にとどまらず、制度を理解し使い分ける視点が欠かせません。今回の法改正は、そのための環境整備が一段進んだことを示しています。
参考
・日本経済新聞「改正下請法きょう施行 政府、価格転嫁の監視強化」(2026年1月1日朝刊)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
