持続可能な社会保障と「インデクセーション」の視点

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日本では少子化と高齢化の進行が続き、社会保障制度の持続可能性があらためて問われています。財源の確保や給付の見直しが議論されるなかで、抜本改革の前に検討すべき視点があります。それが、物価や賃金などの変動に応じて制度を自動調整する「インデクセーション」という考え方です。

税や社会保険は多くが名目額で設計されており、社会経済の変動を反映しないまま実質負担が変わることがあります。この記事では、インデクセーションの基本的な仕組みと、制度維持のための重要性について解説します。

1. インデクセーションとは何か

インデクセーションとは、物価や賃金といった特定の指標に連動して金額を自動的に調整し、実質価値を維持する仕組みを指します。
物価が上昇しても賃金や金利が据え置かれれば、名目額は同じでも実質価値は下がります。このような実質価値の低下を防ぐため、さまざまな場面でインデックス調整が行われています。

例としてよく挙げられるのが「物価連動国債」です。元本と利子が物価変動に応じて調整され、保有者がインフレによる価値目減りを被らないように設計されています。

2. 日本の制度設計には「名目基準」が多い

一方で、日本の税や社会保障制度は名目額で基準が設定されているものが多く、物価変動を反映する仕組みが整っていません。このため、制度の調整が遅れ、知らない間に負担が増えたり、逆に給付の実質価値が下がるという問題が生じます。

こうした「名目固定」の設計が典型的に表れるのが、所得税における「ブラケットクリープ」です。

3. 所得税のブラケットクリープとは

所得税は累進課税で、所得が上がると適用される税率も高くなります。例えば課税所得が325万円から335万円へ増えた場合、330万円を境に税率が上がり、税負担が増えるのは制度上自然なことです。

しかし、もし物価も同じだけ上昇していた場合、実質的な購入力は変わらないにもかかわらず税だけが増えることになります。これがブラケットクリープと呼ばれる現象です。

本来であれば、所得階層のしきい値(税率の境目)を物価変動に応じて自動調整していれば、この歪みは起こりません。

4. 海外では広く採用されるインデックス調整

海外では、所得税や社会保険料にインデクセーションが組み込まれている例が多数あります。

代表例として、米国ではレーガン政権の税制改革(1981年)で所得税の基準額が消費者物価指数に連動する仕組みが導入されました。これにより、物価上昇による実質負担の増加が自動的に抑えられています。

また、英国の国民保険料(日本の社会保険料に相当)でも、保険料が発生する所得水準のしきい値が物価と連動する仕組みを採用しています。

5. 日本で議論が高まる理由

日本では長らく物価や賃金がほとんど上昇せず、ブラケットクリープの問題は顕在化してきませんでした。しかし近年は物価上昇が続き、所得基準を名目固定のままにする不都合が明確になりつつあります。

昨年の衆院選で「基礎控除の引き上げ」が争点となったように、名目基準が政治課題として浮上しやすい状況が生まれています。もし海外のように自動調整の仕組みが整備されていれば、制度設計の歪みによる議論を避け、より本質的な社会保障改革に集中しやすくなります。


結論

日本の社会保障制度を持続可能なものにするためには、給付と負担のバランスを見直す抜本改革が不可避です。その一方で、制度の根底にある名目基準を見直し、物価や賃金の変動を自動的に反映する「インデクセーション」を取り入れることが、改革の前提条件といえます。

インデクセーションは、国民の実質負担を透明化し、予測可能性を高め、政治的な対立を緩和する効果も期待できます。物価上昇局面が続く日本だからこそ、制度の名目固定による歪みを放置せず、自動調整の導入を真剣に検討する時期にきています。


出典

・日本経済新聞「持続可能な社会保障(3) インデクセーションの視点」
・各国税制・社会保障制度資料(米国IRS、英国HMRC など)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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