投資対象を変えないという選択肢

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――「人生100年時代」の資産活用入門(第4回)

これまでの連載では、退職後の資産ポートフォリオを見直す際の考え方として、リスクを下げるための3つの視点や、債券・バランス型投信の活用法について紹介しました。

一方で、「退職したからといって、今までの投資対象を大きく変えたくない」という方も少なくありません。長年付き合ってきた投資信託や株式をそのまま持ち続けたい、売却の手間やコストを増やしたくない――そんなニーズに応えるのが、「投資対象を変えずに資産全体の比率を調整する」 という考え方です。


投資対象を変えないとはどういうことか

通常のポートフォリオ見直しでは、株式投資信託を売却して債券やバランス型投信に乗り換えることが多いですが、この方法では「何も投資対象を変えない」点が特徴です。

基本的な考え方

  • 株式や投信そのものは保有を続ける
  • 資産全体に占めるリスク資産の比率 を下げる
  • その分、現金や預金の比率を高める

つまり、「商品を変える」よりも「配分を変える」 アプローチです。


メリット

1. 売買コストが少ない

投資信託や株式を売却すると、譲渡益課税が発生する場合があります。また、新しい商品を選ぶ手間もかかります。投資対象を変えない方法なら、売買回数を減らし、手数料や税負担を最小限に抑えられます。

2. 投資方針を維持できる

長年慣れ親しんだ商品を持ち続けられるため、新しい商品を調べ直す必要がありません。「米国株中心」「国際分散」など、これまでの方針をそのまま継続できます。

3. 心理的な安心感

大きな商品入れ替えを行わないため、投資家自身が迷わずに済みます。「変えない」という選択肢は、心理的な安定にもつながります。


デメリット・注意点

もちろん、この方法にも弱点があります。

  1. 保有資産のリスクは変わらない
    株式中心の投資信託をそのまま持ち続ければ、当然ながら値動きの大きさも残ります。
  2. 資産規模によっては不十分
    数億円単位の資産を持つ人なら多少リスクを残しても問題ないかもしれませんが、資産規模が小さい場合にはリスク資産の比率を下げるだけでは不安が残ることもあります。
  3. 「現状維持バイアス」に陥る可能性
    「変えるのが面倒だから変えない」という理由だけでこの方法を取ると、将来のリスクに備えられない危険性があります。

実際の調整方法

投資対象を変えない場合、具体的には 「現金比率を増やす」 ことでリスク調整を行います。

例:総資産4,000万円の場合

  • 【現役時代の配分】
     株式投信:3,000万円(75%)
     預金:1,000万円(25%)
  • 【退職後の配分】
     株式投信:2,000万円(50%)
     預金:2,000万円(50%)

株式投信そのものは同じ商品を持ち続けつつ、売却して現金に移すことで比率を下げます。こうすれば投資対象を大きく変えることなく、全体のリスク水準を調整できます。


NISA移行時の対応例

著者の野尻哲史さんも紹介していますが、旧NISAから新NISAに資産を移すときには、一度現金化を伴います。その際に現金比率を増やすことで、結果的に「投資対象は変えないが、全体のバランスを調整する」という形になります。


この方法が向いている人

  • 投資対象を大きく変えたくない人
  • 売買コストや税負担を減らしたい人
  • 長年の投資方針を維持したい人

逆に、資産規模が小さい人やリスク耐性が低い人は、やはり債券やバランス型投信を組み入れる方法の方が適している場合もあります。


まとめ

退職後のポートフォリオ見直しには、

  • 債券やバランス型投信に乗り換える方法
  • 投資対象を変えずに比率だけ調整する方法

という2つの方向性があります。

「投資対象を変えない」という方法は、シンプルかつ実行しやすい一方で、リスクが完全には減らない点に注意が必要です。資産の規模や自分の安心感に応じて、どちらの方法が向いているかを判断することが大切です。

次回(第5回・最終回)は、このシリーズのまとめとして「安心して退職後を過ごすためのポートフォリオの考え方」を総合的に整理します。資産寿命を伸ばし、安心して人生100年時代を生きるための実践的なポイントを解説していきます。


(参考:日本経済電子版 2025年9月14日記事)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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