投資をしない選択──安全第一の取り崩しシミュレーション

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これまでの記事では、「退職金で投資デビューは危険」という基本的な考え方、そして「投資経験者が退職後にどう資産運用を続けるか」という戦略を整理してきました。

しかし、すべての人が投資をする必要はありません。むしろ「投資をしない」という選択をした方が安心できる人も大勢います。
退職後の資産運用の目的は「資産を大きく増やす」ことではなく、「安心して資産を使い切る」ことだからです。

今回は、投資をしない場合の取り崩しシミュレーションについて考えてみましょう。


投資をしない人の基本戦略

投資をしない人の老後資産運用の基本は、とてもシンプルです。

  • 預金や退職金などの 現金資産 を中心に
  • 公的年金を土台として
  • 必要に応じて 勤労収入(再雇用やパートなど)を組み合わせる

つまり「資産収入+年金+勤労収入」の3本柱で生活を支えることになります。

投資のリスクを取らない代わりに、生活費の水準を調整することが重要になります。


シミュレーション① 退職金3,000万円+年金月20万円

仮に以下の条件を考えてみましょう。

  • 65歳で退職
  • 退職金:3,000万円
  • 公的年金:月20万円(夫婦合算)
  • 生活費:月30万円

この場合、毎月の生活費が10万円不足します。
年間では120万円、30年で3,600万円が必要になります。

👉 手元の退職金3,000万円では不足する計算です。

ではどうすればよいのでしょうか?


シミュレーション② 生活費を調整する

生活費を「月30万円 → 月27万円」に抑えられたと仮定します。

  • 年金:月20万円
  • 生活費:月27万円
  • 毎月の不足:7万円
  • 年間84万円 → 30年で2,520万円

👉 退職金3,000万円で十分まかなえます。

つまり、生活費を1割抑えるだけで、資産寿命が大幅に延びることがわかります。


シミュレーション③ 勤労収入を組み合わせる

再雇用やパート収入で「月5万円」を得る場合を考えてみます。

  • 年金:月20万円
  • 勤労収入:月5万円
  • 合計収入:月25万円
  • 生活費:月30万円
  • 毎月の不足:5万円
  • 年間60万円 → 30年で1,800万円

👉 退職金3,000万円のうち1,800万円を取り崩すだけで済みます。
1,200万円は予備資金として残すことができます。


投資をしない場合のメリットとデメリット

メリット

  • 相場変動に振り回されない
  • 生活資金の見通しが立てやすい
  • 精神的な安心感が大きい

デメリット

  • インフレ(物価上昇)に弱い
  • 預金金利が低いため、資産は目減りしていく
  • 「もっと増やせたのに」と思うこともある

つまり、投資をしない選択は「安心感」を優先する代わりに、「インフレリスク」を引き受けることになります。


インフレにどう備えるか?

投資をしない場合、インフレ対策が課題になります。
ただし「全く投資をしない」よりも、「最低限のインフレヘッジ」をしておく方法もあります。

  • 国債(物価連動国債)を少額保有
  • 個人向け国債(変動10年)で金利上昇に備える
  • 生活費を調整できる柔軟性を持つ

「資産の大部分は安全資産に置きながら、一部でインフレ対応をする」というのが現実的です。


生活費の見直しは「最大の投資」

退職後に資産寿命を延ばす上で、実は生活費の見直しこそ最大の投資効果があります。

  • 住居費(住宅ローンを完済しているか、家賃は適切か)
  • 保険料(不要な保障に入っていないか)
  • 通信費(格安SIMやプラン見直し)
  • 食費・交際費(楽しみを残しつつ調整)

生活費を月2〜3万円抑えるだけで、老後資金の安心度は大きく変わります。


「投資しない=失敗」ではない

「資産運用をしないと老後破綻する」という声を聞くことがあります。
しかし、それは必ずしも正しくありません。

投資をしなくても、

  • 生活費の水準を見直す
  • 勤労収入を少し加える
  • 年金を繰下げて受給額を増やす

といった工夫で、十分に安心できる暮らしを作ることができます。


まとめ

投資をしない場合の取り崩し戦略は、

  1. 預金・退職金を中心に取り崩す
  2. 年金・勤労収入と組み合わせる
  3. 生活費を調整することで資産寿命を延ばす

というシンプルな方法です。

投資をするかしないかは「正解・不正解」ではなく、自分に合った安心感を選ぶことが大切です。


📖参考文献

  • 野尻哲史『100歳まで残す 資産「使い切り」実践法』(日本経済新聞出版)
  • 「退職金での投資デビューはなぜお勧めできないのか」日本経済新聞(2025年9月22日)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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