承継税制+信託+持株会社を使った“多層承継”設計―― 「資産」「経営」「相続」を立体的につなぐ次世代モデル

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1. 単層承継では限界がある

事業承継をめぐる環境は急速に複雑化しています。

  • 経営権だけを子に移すと相続税負担が重くなる
  • 株式を贈与しても創業者が認知症になると議決権が凍結
  • 複数事業を展開する企業では資本構造が分散しやすい

こうした問題に対し、いま実務家の間で注目されているのが、
「承継税制 × 家族信託 × 持株会社」を組み合わせた多層承継スキームです。

これは単なる節税スキームではなく、
“企業グループとしての持続的承継”を実現するガバナンス・資本設計モデルです。


2. 【図解】多層承継の全体構造

┌────────────────────────┐
│【第一層】経営承継(事業承継税制)                    │
│  └ 創業者 → 後継者(代表者・経営権移転)             │
│       ↓ 納税猶予+雇用維持要件                        │
├────────────────────────┤
│【第二層】資産承継(家族信託)                        │
│  └ 株式・不動産等を信託財産化し、受託者(後継者)が管理│
│       ↓ 創業者が受益者、認知症でも経営継続可能        │
├────────────────────────┤
│【第三層】所有承継(持株会社)                        │
│  └ 持株会社(HD)が株式を一元管理                    │
│       ↓ 相続時は株式評価を圧縮、後継者間の分割調整可 │
└────────────────────────┘

💡3層構造にすることで、
「税の最適化」「経営の継続性」「相続の公平性」を同時に満たすことが可能になります。


3. 第一層:承継税制による経営権の移転

まず核となるのが、特例事業承継税制の活用です。
これは、代表権と株式を後継者に移転するフェーズ

手続概要ポイント
特例承継計画提出都道府県へ計画提出(令和9年3月末まで)税制適用の前提条件
贈与実行株式を後継者に贈与(贈与税100%猶予)贈与契約書+株主名簿更新
納税猶予申請税務署に贈与税申告+納税猶予申請書2か月以内
5年間の継続要件代表者継続・雇用維持8割など定期報告必須

✅ この段階で経営権を後継者に移すと同時に、
創業者は受益権として“配当・生活資金”を残す設計が望まれます。
→ ここで次の「信託スキーム」との連動が生きてきます。


4. 第二層:家族信託による資産承継(経営リスクの遮断)

承継税制で株式を贈与した後、
贈与株式を信託財産に移すことで、経営権を安全に管理します。

仕組みの流れ

【委託者】創業者
 ↓ 株式を信託財産に移転
【受託者】後継者(長男など)
 ↓ 経営権・議決権の管理
【受益者】創業者本人(配当受領)
メリット実務効果
認知症リスク回避委託者が判断能力を失っても事業継続可
所有と経営の分離議決権管理と配当権を分けられる
相続時の混乱防止信託契約で次の受益者を指定できる

📌 承継税制の要件(議決権過半数)は信託設計時に保持させること。
税理士・弁護士が合同で信託契約条項を確認するのが実務の定石です。


5. 第三層:持株会社による所有承継(相続対策)

最終層は、株式を持株会社(ホールディングス)に集中させ、
資本を一元管理するステージです。

【スキーム例】

A社(事業会社) ←100%→ HD社(持株会社)
         ↑
       後継者が代表
         ↑
    家族信託により議決権を管理
メリット説明
株式評価の圧縮HD社の純資産方式で評価減が可能
相続分割の柔軟化HD株を複数子に分散可(1社管理)
グループ経営化事業会社を複数抱えても統制しやすい
承継税制との整合HD株を贈与対象にすることで継続性確保

💡実務では、HDを新設し、A社株を現物出資または株式交換で移転。
その後、承継税制の対象株をHD株に切り替えるケースが増えています。


6. ケーススタディ:C社グループ(製造+不動産)

創業者:70歳 / 後継者:長男(45歳・取締役)

項目内容
グループ構成製造業(A社)+不動産管理(B社)
対策内容持株会社(HD)設立+承継税制+家族信託
スキーム
1️⃣ HDを新設 → A社・B社株を現物出資(株式交換)
2️⃣ HD株を後継者へ贈与(特例事業承継税制)
3️⃣ HD株を信託し、創業者を受益者に設定
結果経営権移譲・税負担ゼロ・認知症対策・資産集中管理

✅ HDを介在させることで、
相続時にはHD株式のみを評価対象にでき、
不動産や製造業のリスクを切り離すことが可能になった。


7. 税務・会計上の留意点

分類主なポイント
承継税制持株会社の株式も対象可(純粋持株会社に限る)
信託課税信託設定時は非課税、受益権移転時に贈与課税リスクあり
法人税現物出資・株式交換時の簿価引継 or 時価評価に留意
相続税HD株式の評価は「純資産法」+「類似業種比準法」で算定
ガバナンスHD設立後の役員構成を親子共同体制に

📌「税制適格組織再編」「信託課税」「贈与税猶予」の3法領域が交差します。
専門家(税理士+弁護士+会計士)の合同検証が必須です。


8. 実務構築のステップ(スケジュール例)

フェーズ期間内容
1. 計画策定0〜3か月企業評価・株主構成・承継計画書提出
2. HD設立・株式移転3〜6か月持株会社設立・株式交換契約・登記
3. 承継税制申請6〜9か月都道府県+税務署へ同時提出
4. 家族信託設定9〜12か月契約書作成・信託登記・議決権管理設定
5. 継続管理以後毎年事業継続届・雇用維持・受益権更新

💬 導入から安定稼働まで約1年が目安。
早期に「税・法務・会計チーム」を編成することが成功の鍵です。


9. メリットとリスクの整理

メリットリスク・注意点
税負担の圧縮(贈与税・相続税)承継税制の要件逸脱リスク
経営権の安定化(信託管理)信託契約設計のミスで議決権喪失
相続分割の柔軟性HD設立時の登記・費用負担
資産防衛(リスク分離)グループ法人税制・連結納税の影響

⚠️ 特に「議決権の帰属」設計を誤ると、
承継税制の適用除外や信託課税の対象となるため慎重な設計が求められます。


10. まとめ ― 「多層承継」で企業の100年を設計する

承継は「相続」ではなく「経営の継続」です。
単発の税制適用ではなく、構造的な資本設計が求められる時代です。

  • 第一層:承継税制で税負担を軽減
  • 第二層:家族信託で経営継続を保証
  • 第三層:持株会社で資本を守り、次世代を支える

この3層を組み合わせることで、
「人」「資産」「組織」を立体的に承継することができます。

🌱 目指すのは、「創業者の意思と企業の価値を100年つなぐ」仕組み。
承継税制・信託・持株会社は、そのための“3つの柱”です。


📘 出典・参考

  • 中小企業庁『特例事業承継税制の手引き(令和6年度版)』
  • 国税庁『民事信託の税務Q&A』
  • 金融庁『純粋持株会社の設立と会計上の取扱い』
  • 日本公認会計士協会『事業承継・組織再編の会計実務指針』
  • 日本経済新聞「自社株承継、信託・持株会社で進化するガバナンス」(2025年10月)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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