医療費や介護費用の増加により、社会保障制度の持続性が問われています。とくに焦点となっているのが、所得のある高齢者の医療費負担をどこまで広げるかという問題です。年金生活者、医療現場、若年世代――それぞれの立場には切実な思いがあります。社会保障の「公平」とは何か。生活者の視点から考えてみます。
年金生活者の不安と葛藤
「収入があると言われても、余裕はない」。年金を受け取りながらも、物価高や医療費の増加に頭を抱える高齢者は少なくありません。
現行制度では、一定の所得(おおむね年収383万円以上)がある高齢者は、医療費の自己負担が2割または3割に引き上げられています。しかし、年金収入が増えたわけではなく、生活実感としては「負担ばかりが増える」という声が強いのが現実です。
特に一人暮らしの高齢者や持病を抱える人ほど、通院頻度が高く、医療費の支払いが家計を圧迫します。「病院に行くのをためらうようになった」と話す人もいます。
医療現場から見える現実
医師や看護師の立場からは、「負担増が受診抑制につながる」ことを懸念する声が上がっています。
ある総合病院の内科医は「高齢の患者さんが薬を減らしたり、通院間隔を伸ばしたりして症状を悪化させるケースが増えている」と話します。医療費の抑制は必要でも、結果的に病状が重くなり、かえって医療費全体が膨らむ悪循環を招くこともあります。
また、地域医療の現場では「単身高齢者の見守り機能を担っている側面もある」として、単純な自己負担引き上げには慎重な意見が根強くあります。
若年世代の負担感
一方で、現役世代の負担も限界に近づいています。会社員の社会保険料はすでに給与の15%前後を占め、手取りの減少が続いています。
「親の医療費が増えると、子ども世代の家計にも跳ね返る」「保険料が上がるばかりで、将来自分たちがどれだけの給付を受けられるのか不安」――こうした声が若い世代に広がっています。
高齢者の負担を一定程度増やすことは、現役世代の可処分所得を守るためでもあります。世代間のバランスをどう取るかが最大の課題です。
公平性をどう定義するか
負担能力に応じた制度設計が叫ばれる一方で、「どこからが“余裕のある高齢者”なのか」という線引きは簡単ではありません。
現行の所得区分は主に年金収入を基準としていますが、実際には金融資産の多寡や家族構成によって生活実感が大きく異なります。
また、「長く保険料を納めてきたのだから、引退後くらいは安心して医療を受けたい」という感情的な側面も無視できません。公平性の議論は、数字だけでは割り切れない現実を伴います。
結論
社会保障の再設計は、「誰に、どれだけの負担を求めるか」という避けて通れないテーマです。
高齢者の安心を守りながら、若い世代の将来不安を軽減する。そのためには、世代間で対立するのではなく、「共に支え合う仕組み」として制度を再構築する必要があります。
“負担の公平”とは単なる数字の調整ではなく、社会全体で「共に生きる」意思の表れでもあります。高市政権が掲げる「全世代型社会保障」の理念が、現場の実感とどうつながるか――今後の議論が注目されます。
出典
・日本経済新聞「社会保障5つの論点」シリーズ(2025年11月)
・厚生労働省「社会保障審議会 医療保険部会」資料
・財務省「財政制度等審議会」資料
・総務省「家計調査」より
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
