政府は2029年に、地方の経済成長率が東京圏を上回ることを目標とする地方創生の総合戦略案を打ち出しました。
東京一極集中を是正し、地方の自立的な成長を実現するという方向性自体は、これまでも繰り返し掲げられてきました。しかし今回は、成長率という数値目標を明確に設定した点が特徴です。
この目標は現実的なのか、そして達成の条件は何かを整理してみます。
東京圏と地方の成長格差の現状
県民経済計算によると、2022年度の名目県内総生産は、首都圏1都3県が前年比3.5%増だったのに対し、その他43道府県は2.6%増にとどまりました。
また、2012年度からの10年間で見ても、首都圏の増加率は14.9%、地方は13.5%と、差は小さいものの東京圏が上回っています。
足元の数字を見る限り、地方が自律的に東京圏を上回る成長軌道に入っているとは言いにくい状況です。
人口動態が突きつける現実
経済成長を考えるうえで、人口動態は避けて通れません。
住民基本台帳によると、2025年1月時点で人口が前年より増えたのは東京都と千葉県のみで、特に東京都は9万人の増加でした。
一方、地方では人口減少が続いています。労働力人口の減少は、需要・供給の両面から成長率を押し下げる要因になります。
地方が東京圏を上回る成長率を実現するには、人口流出を抑えるだけでなく、人口減少を前提とした経済構造への転換が不可欠です。
成長率逆転のカギは「生産性」
人口が増えない、あるいは減る中で成長率を高めるには、生産性の向上しかありません。
今回の総合戦略が掲げる「強い経済」は、その点を意識した柱といえます。
具体的には、デジタル化、AI活用、産業の高度化によって、同じ人数でもより大きな付加価値を生み出す構造への転換が求められます。
地方では、人手不足が深刻な分野ほど、省力化投資や業務の再設計による生産性向上の余地が大きい側面もあります。
「豊かな生活環境」と「選ばれる地方」の意味
成長率だけを追い求めても、人が定着しなければ持続性はありません。
戦略案が掲げる「豊かな生活環境」「選ばれる地方」は、経済政策と生活政策を一体で進めるという意思表示といえます。
医療・教育・交通といった基盤整備に加え、働き方の柔軟化やリモートワーク環境の整備は、都市から地方への人の流れを生む重要な要素です。
単なる補助金や移転促進策ではなく、生活の質そのものを高められるかが問われます。
数値目標がもたらす功罪
成長率で「地方>東京」という明確な目標を掲げたことは、政策評価の基準を示した点で意義があります。
一方で、短期的な数字合わせに陥るリスクもあります。
成長率は分母である経済規模が小さいほど上げやすい指標でもあります。持続性のある成長なのか、一時的な押し上げなのかを見極める視点が欠かせません。
結論
地方の成長率が東京圏を上回るという目標は、決して不可能ではありません。しかし、それは人口減少を前提とした生産性革命と、生活環境の質の向上を同時に実現できた場合に限られます。
今回の地方創生戦略は、方向性としては一歩踏み込んだものと評価できますが、実行段階でどこまで構造改革に踏み込めるかが成否を分けます。
今後は、成長率という数字だけでなく、その中身と持続性に注目していく必要があります。
参考
・成長率、29年「地方>東京」政府、地方創生戦略案(日本経済新聞 2025年12月16日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

