役員退職金の損金算入タイミング― 調査官が見る“実質支給日”の判断(調査官の指摘 vs 会社の言い分⑤)

税理士
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退職金は「功労の最終評価」として会社・経営者にとって重要な支出ですが、
税務上は損金算入時期や支給の実質性をめぐって否認されるケースが後を絶ちません。
今回は、令和7年度 全国統一研修会資料から、代表的な3つの事例を取り上げます。


① 一部未払いでの損金計上 ― 「債務確定」の誤解

事例
A社は役員B氏の退職に伴い、退職金1,500万円を株主総会で決議。
しかし資金繰りの都合上、当期に500万円、残り1,000万円を翌期以降に分割支給としました。
会社は決議時点で1,500万円全額を未払計上し損金処理。

調査官の指摘
退職金の全額支給が確定していても、実際に支給した500万円分のみ損金算入可
未払分1,000万円は支給時の事業年度の損金とすべき。

会社の主張
株主総会決議により債務は確定しており、全額を当期損金とできる。

結論:調査官の指摘が正しい。

役員退職金は、支給義務が確定しただけでは損金算入できない
「実際に支給した日」が属する事業年度の損金とする(法基通9-2-32)。

実務ポイント

  • “債務確定=損金算入”は誤り。
  • 実際支給の事実(現金支出・振込実行)がある年度に計上。
  • 資金繰り上の分割支給は、分割ごとに損金算入する。

② 制度廃止に伴う打切支給 ― 「退職」ではなく「給与」扱いのリスク

事例
A社は業績悪化を理由に役員退職金制度を廃止。
廃止時点で在職中の役員に対し、「就任から総会日までの期間」に応じた打切支給を実施。
会社はこれを「退職金」として損金処理。

調査官の指摘
在職中の役員への支給であり、実際には退職していないため“給与・賞与”扱い
損金不算入とすべき。

会社の主張
退職金制度廃止に伴う打切りであり、過去の勤務に対する支給。
退職金相当として損金算入できる。

結論:会社の主張が認められる。

制度廃止に伴う支給は、実質的に退職に準ずる支給として損金算入可。
法基通9-2-35「退職給与の打切支給」に該当する。

実務ポイント

  • 「役員が退職していなくても」、制度廃止等で支給する場合は退職に準ずる支給として認められる。
  • 株主総会決議の議事録に「退職金制度廃止」「打切支給」の明記が重要。

③ 退職後の追加支給 ― “功労加算”のつもりが否認対象に

事例
A社の前社長B氏は3年前に退職し、退職金を支給済。
当時は業績不振のため少額だったが、業績回復後に不足分として追加退職金を支給。
会社は追加分も損金処理。

調査官の指摘
退職後の支給は「役員退職金」ではなく贈与的な支出であり、損金算入不可。

会社の主張
株主総会決議に基づく支給で、総額として見れば歴代社長より低額。

結論:会社の主張が認められる。

退職時に支給漏れ・不足が明らかな場合の追加支給は、
当初退職金の一部として損金算入を認めることができる。
ただし「功労加算」「慰労金」との区別を明確に。

実務ポイント

  • 「退職時に支給漏れ」「業績悪化による減額」など合理的理由が必要。
  • 「後からの気持ち」や「功績再評価」に基づく追加支給は贈与扱いのリスク。

🧾 まとめ ― 「支給の実態」がすべてを決める

論点損金算入可損金不算入
一部未払支給支給済分のみ未払計上分
制度廃止時の打切支給退職に準ずる支給と認められる場合在職中支給で実質賞与と判断される場合
追加支給当初支給不足の補填・合理的理由あり功労加算・贈与的支出

💬 税理士の視点からの教訓

  • 「支給決議」よりも「支給実績」を重視。
  • 退職金制度の見直しや打切りは、議事録・規定整備で“退職に準ずる性格”を明示。
  • 追加支給時は「当初支給額の合理性」「歴代役員との比較資料」など証拠を残す。
  • 調査官は「感情」ではなく「形式と整合性」で判断する。

📚出典
東京税理士協同組合 教育情報事業配布資料
「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」より


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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