役員給与の税務判断 ― 定期同額と家族手当の落とし穴― 調査官の指摘 vs 会社の言い分④

税理士
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役員給与は、法人税の世界で最も頻出する論点の一つです。
「少しの増減」や「福利厚生的な支出」が、思わぬ否認リスクを生むことがあります。
令和7年度の全国統一研修会では、「定期同額給与」「役員の人間ドック」「家族手当」など、実務で混乱しやすいテーマが整理されています。
今回は3つの代表的な事例を見ていきましょう。


① 社長の人間ドック費用 ― 福利厚生費になるのか?

事例
A社のB社長は毎年、気分転換を兼ねて5日間の人間ドックに入り、会社はその費用10万円を補助していました。
会社はこの10万円を「福利厚生費」として処理。社員の中で会社負担があるのは社長だけです。

調査官の指摘
健康管理は個人の責任であり、人間ドック費用は社長個人の支出。
したがって、会社負担分は「役員給与」として損金不算入。

会社の主張
社長の健康は会社経営に直結し、体調管理も業務上必要。
会社が一部負担しても合理的ではないか。

結論:調査官の指摘が妥当。

個人的な性格が強く、役員のみに支給されているため福利厚生費には該当しない。
ただし、全社員一律の制度社会通念上相当な範囲会社から直接支払いの条件を満たせば福利厚生費として認められる可能性がある 。

実務ポイント

  • 社長・役員のみ負担の場合は「給与課税リスク」あり。
  • 社員にも同条件の健康診断補助制度を設けることで防衛可能。

② 定期同額給与 ― 増額のタイミングを誤ると否認リスク

事例
A社(3月決算)は毎月25日に役員給与を支給。
5月28日の株主総会で「月額100万円→120万円」に増額を決議し、7月25日支給分から適用しました。
会社は増額分も損金処理。

調査官の指摘
5月決議でも、6月支給分まで旧額を維持しており、
“定期同額給与”の要件(事業年度開始から最初の支給時期までの支給額が同額)を満たさない。
よって増額分は損金不算入。

会社の主張
定時株主総会決議に基づく改定であり、形式上は問題ない。

結論:調査官の指摘が正しい。

増額決議のタイミングと実際の支給時期のずれにより、定期同額性が失われる
決議が5月でも、6月支給分から新額を適用すれば認められるが、7月開始では遅い 。

実務ポイント

  • 「株主総会日」「給与改定日」「支給日」を一致させるのが鉄則。
  • 6月決算会社では、決議・改定・支給のスケジュール管理が必須。

③ 家族手当の新設 ― 定期同額給与に影響するか?

事例
A社は役員に対して期中から家族手当(月2万円)を新設し支給を開始。
会社は「定期給与の範囲内」として損金算入しました。

調査官の指摘
期中支給の追加は定期同額給与の要件を満たさず、増額分は損金不算入

会社の主張
家族手当は社会的慣行に基づく手当であり、給与本体の増額ではない。

結論:調査官の指摘が正しい。

家族手当・役職手当などの追加支給も「支給額の変動」に該当。
定期同額給与の例外規定には当たらない 。

実務ポイント

  • 期中の新設手当は、事前決定給与として届出がない限り、損金不算入リスク。
  • 家族手当・単身赴任手当などの支給開始時期は、必ず「期首または届出時期」に合わせる。

🧾 まとめ ― 「形式」と「タイミング」がすべてを決める

判断軸損金算入が認められる条件否認されるパターン
福利厚生費全社員一律、会社直接支払い役員のみ・個人負担補助
定期同額給与期首から改定後支給前日まで同額改定時期と支給時期のずれ
手当新設期首または届出時期で改定期中支給・突発支給

💬 税理士の視点からの教訓

  • 「制度の合理性」と「形式要件」は別物。
  • 決議・届出・支給の3点セットの整合性を常に確認。
  • 特に中小企業では「役員=経営者」であるため、形式を整える意識が税務防衛につながる。
  • 税務調査では、“意図的な増減かどうか”よりも「書類上の一貫性」が問われる。

📚出典
東京税理士協同組合 教育情報事業配布資料
「令和7年度 全国統一研修会 ~調査官の指摘 vs 会社の言い分~」より


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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