1.35年ローンが「標準」でなくなる時代
「完済は77歳です」――。
都内で新築一戸建てを購入した30代夫婦の住宅ローン返済計画を聞くと、そんな言葉が返ってきました。
借入額は7000万円。返済期間は47年。
これまで「最長35年」が当たり前だった住宅ローンに、いま“超長期”の波が押し寄せています。
住宅金融支援機構の調査によると、35年を超える返済期間を選ぶ人は全体の約4人に1人。
特に20~30代前半の若年層が中心です。背景には、上昇を続ける不動産価格と、住宅ローンを取り扱う銀行側の変化があります。
2.ネット銀行も続々参入:「50年ローン」拡大中
2023年に住信SBIネット銀行がネット銀行で初めて50年ローンを導入。
その後、auじぶん銀行やPayPay銀行なども相次ぎ参入しました。
住宅金融支援機構と提携した「フラット50」も申請件数が前年の4倍に増えています。
最近では、長期優良住宅や認定マンション以外の物件にも適用範囲が拡大。
若い世代にとって、より現実的な選択肢になりつつあります。
3.毎月の返済を「3万円」減らすという魅力
8000万円を借り入れる場合、10月時点の「フラット35」(年1.89%)では毎月約26.1万円の返済。
一方、「フラット50」(年1.99%)なら約21.1万円に抑えられます。
返済期間を延ばすことで、月々5万円近くの差が出ることもあります。
この差額を「投資に回す」「教育費に充てる」など、家計に余裕を持たせたいという考え方も増えています。
確かに、35年ローンと比べると短期的な負担感はぐっと減ります。
4.ただし、金利と残高の“魔法”には裏がある
しかし、返済期間を延ばせば延ばすほど、利息は増えるという原則は変わりません。
同じ8000万円を借りた場合、総返済額は――
- 35年返済:約1億900万円
- 50年返済:約1億2600万円
なんと3500万円の差。
つまり「月々を安くした分、長く払い続ける」構造です。
さらに、返済初期は利息が中心で元本がほとんど減らないため、20年経っても残債が半分にならないケースもあります。
60歳を迎えても数千万円の残債が残ることになれば、老後資金を圧迫しかねません。
5.「定年時の残債1000万円以内」が目安
住宅ローンコンサルタントの中村岳広氏はこう警鐘を鳴らします。
「定年時の残債は1000万円程度に抑えるのが基本。退職金をほぼ全額ローン返済に充てると、老後資金が不足します」
これはFPや税理士としても強く共感するポイントです。
老後生活費や医療費、リフォーム費を考えると、「完済よりも生活防衛の余裕」が欠かせません。
住宅ローン控除が終わるタイミング(多くは13年後)を目安に、繰り上げ返済の計画を立てておくのが現実的です。
6.“売却で完済”という発想の落とし穴
都心部では「値下がりしにくいから、売って完済すればいい」と考える人もいます。
しかし、返済期間が長いほど残債の減りが遅く、売却時にローン残高 > 売却価格となる「オーバーローン」リスクが高まります。
返済開始から20年後の残債は――
- 35年ローン:約4100万円
- 50年ローン:約5700万円
20年後に売るとしても、ローン残高を上回る価格で売れるかがカギになります。
金利上昇局面や地方物件では、リスクが現実化しやすい点に注意が必要です。
7.「50年ローン」は悪ではない、使い方の問題
結論として、「50年ローン」そのものが悪いわけではありません。
むしろ、柔軟なライフプラン設計を支える選択肢のひとつです。
たとえば――
- 共働きのうちは長期で組み、子育て期や昇給後に繰り上げ返済
- 余裕資金をNISAやiDeCoで運用し、将来の返済原資にする
- 退職前に残債を1000万円以内に調整する
このように「長く借りて短く返す」戦略を意識すれば、50年ローンも決して無謀ではありません。
8.最後に:FP・税理士からのワンポイント
住宅ローンは“借金”であると同時に、“人生設計のインフラ”です。
大切なのは「金利」「返済期間」だけでなく、
- いつ・いくら返せば老後資金が確保できるか
- 教育・介護・相続など他の支出とどう両立するか
といった総合的なライフプランの視点です。
これから住宅購入を考える方は、ぜひ数字の「見やすさ」だけでなく、
「完済までの人生の見通し」を一緒に描いてみてください。
📘参考:2025年10月25日 日本経済新聞朝刊「広がる50年住宅ローン」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

